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教養・歴史 書評

現代中国の富・権力・腐敗を暴いた『紅色賭盤』漢訳、満を持して出版 菱田雅晴

 中国出身の実業家・沈棟(デズモンド・シャム)の英語による著書『レッド・ルーレット』(2021年)が、今年3月に『紅色賭盤』と題されて台湾で出版された(Zhou Jian訳、今周刊出版社)。大陸を含む漢字圏読者の目に触れる機会がようやく巡ってきたことになる。

 というのも『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』と題して日本語訳が草思社から出版(22年)されるなど、先に14カ国語に翻訳されていた。内容は、今日の中国における富、権力、堕落、復讐(ふくしゅう)のインサイダーの物語だ。

 英『エコノミスト』誌が21年度の最優秀書籍に選び、米テレビ局のCNNが「中国が読まれたくない本」と評するように、中国でビッグプロジェクトをいかに展開し、成功を勝ち取るかについて書かれた同書は、これらをめぐる中国の腐敗の内幕を生々しい筆致で活写している。

 著者は上海の貧しい教師の家に生まれ、香港に脱出後、米ウィスコンシン大学で金融と会計学を学び、卒業して香港に戻って株式仲買人となった「海亀族」(海外留学組)である。

 元妻のホイットニー・デュアン(段偉紅)が権力者との関係(コネ)こそビジネス成功の唯一の道と信じ、温家宝の妻・張培莉の信頼を糧に、ルーレットのような中国の政治環境下、紅い貴族と結びついて想像を絶する成功を収める。著者はそのビジネスパートナーとして、また夫としてともに高みに上り詰めていく。

 世界最大級の北京首都国際空港の物流ハブ建設や平安保険の株売買で、数十億ドルの純資産を築く。その過程では、ビジネス相手となる高級幹部を酒席や旅行でもてなすのはもちろん、同時に現場の処長級幹部ともしっかりコネを作っておくことを忘れない。これら臨場感たっぷりの中国ビジネスの裏面描写の中には、張培莉夫人のみならず、孫政才、王岐山、賈慶林、令計画、薄熙来、そしてほかならぬ習近平といった中国政界の大物たちも次々に登場する。

 ホイットニーと別れた筆者は現在、一人息子とイギリスに住んでいるという。現代中国の腐敗研究に豊富な資料を提供する格好のテキストともいうべき衝撃の書だけに、この中国語訳出版の政治的インパクトは非常に大きい。

(菱田雅晴・法政大学名誉教授)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年5月2・9日合併号掲載

海外出版事情 台湾 本土の腐敗を暴露した『紅色賭盤』=菱田雅晴

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