ようやく見られるようになった写真 被占領“日本”を「色」で読む 評者・池内了
『占領期カラー写真を読む オキュパイド・ジャパンの色』
著者 佐藤洋一(早稲田大学教授) 衣川太一(神戸映画資料館研究員)
岩波新書 1254円
世界最初の写真は1827年にフランス人ニエプスが発明したそうだから200年近くの歴史がある。その間、乾板からフィルムそして電子回路へと写真技術が進歩し、モノクロ(白黒)撮影からカラー(天然色)撮影が当たり前となって、今や誰もがスマホというカメラを常に携行する時代となった。本書では、明治維新以来の150年の日本の歴史を残された写真でたどることができるのだが、空白の時代がある。1945~52年の敗戦国日本が米軍に占領された時代で、占領者と被占領者との間の「分断」と占領軍による「検閲」という2条件のために情報飢餓が生じたのである。ところがインターネットとデジタル化のおかげで、2000年代後半から占領期のカラー写真が大量に出回るようになった。本書は、それらのカラー写真の「色」から「オキュパイド・ジャパンのイメージ」を読み解こうという試みの紹介である。
占領期の写真には、公的目的のためのオフィシャル写真、報道機関で撮影されたプレス写真、個人的に撮ったパーソナル写真、の三つのカテゴリーがある。そのいずれに重点を置くかで占領期の日本のイメージは大きく変わるし、入手しやすい写真の偏りもあるので、利用には十分な吟味が必要である。また写真は記録性が命だから、撮影場所と日時そして撮影者が特定されていることが望ましい。カラー写真が多く使われるのは、当時18枚セットで現像料込みのカラースライド用フィルムが発売されていて、一連の撮影経過がわかり、そのマウントに撮影者のメモが残されていることが多く、記録性に長(た)けているためである。
収録されている105枚のカラー写真で興味がそそられたのは、三つのカテゴリーの「境目」の作品である。例えば、天皇の表情をすぐそばで捉えた写真はオフィシャルには使えないがプレスが歓迎したであろう。赤旗を掲げたデモ行進を背景にして、有栖川宮の銅像の下で毬(まり)つきに夢中になっている子どものプレスとパーソナルのはざまの写真もある。撮影者もとっさに絵になる情景にシャッターを押したのであろう。
戦後50年以上を経てから占領期のカラー写真が多く出回るようになったのは、日本に赴任した軍人・軍属・文官・広報部員などのパーソナル写真が、本人や遺族が物故して、孫たちが破棄せずにオークションに出して金が稼げるようになったからだ。それらがもっと出回ると、また新しい占領日本の姿を目にすることができるだろう。楽しみである。
(池内了・総合研究大学院大学名誉教授)
さとう・よういち 1966年生まれ。都市史、ビジュアルアーカイブが専門。著書に『図説 占領下の東京』など。
きぬがわ・たいち 1970年生まれ。フィルム資料研究者。共著書に『戦後京都の「色」はアメリカにあった!』。
週刊エコノミスト2023年5月16日号掲載
『占領期カラー写真を読む オキュパイド・ジャパンの色』=評者・池内了