⑨エコリング――「不用品売却でCO₂削減」のリサイクルショップ 削減量確認できるスマホアプリを導入
国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を紹介していく。
第9回目は、買い取り専門店のエコリング(兵庫県姫路市、桑田一成社長)を取り上げる。同社は日本で約200(フランチャイズ店を含む)、アジア諸国でも約30の買い取り専門店を展開。貴金属などはもちろん、着古したワイシャツなど「不用品」まで買い取り、販売する。2022年11月には、利用者がエコリングにモノを売却することで削減できる二酸化炭素(CO₂)の量を確認できる「エコパラメーター」を導入。買い取り専門店だからこそできる地球温暖化対策を積極的に進めている。
【エコリングが実践する主なSDGsの目標】・目標1(貧困をなくそう)・目標10(人や国の不平等をなくそう)・目標12(つくる責任 つかう責任)・目標13(気候変動に具体的な対策を)
不用なワイシャツも1000枚集まれば売れる商品に
「1枚の使い古しのワイシャツだけでは販売しようがないが、それが1000枚集まれば売れる商品に変貌する」「みんなが売れないと思っているものを売れるようにするのが真の古物商だ」。エコリングの桑田社長の経営理論は独特だ。
しかし、その説明には説得力がある。1000枚のワイシャツからは、10000個のボタンを取ることができる。ボタンを取り去ったワイシャツを「布切れ」として売れば、「油をふく布巾」として国内工場から多くのニーズがある。たくさん集めた「不用品」を分解して、ときには組み合わせて「商品」に変えていくやり方だ。
日本国内で売れないものは、タイやカンボジア、フィリピンなど海外に持ち込むと、買ってくれる人たちがたくさんいる。アジア諸国では「日本の古着は品質が高い」「中古品でも目の肥えた日本人が着たものなら大丈夫」と評判が良いからだ。それでもダメなら孤児院などに寄付する。捨てられてゴミの焼却機で燃やされてしまうはずだった古着が、国内外の人たちのニーズを満たし、排出されるはずだったCO₂も減らす――。まさにSDGsの目標12「つくる責任 使う責任」、目標13「気候変動に具体的な対策を」を体現するビジネスモデルだといえるだろう。
アプリで売却した不用品のCO₂削減量を知る
そのエコリングが昨年始めたのが「エコパラメーター」という新サービスだ。利用者がスマートフォンでダウンロードしたエコリングのアプリを見ると、自分が売却した不用品が排出するはずだったCO₂の量がわかる仕組み。リユース業界では初めての試みだ。
アプリ画面には、「靴やバッグなどアイテム別のCO₂削減量」や「自分が削減したCO₂量の履歴」などが表示される。排出量は産業技術総合研究所のIDEA(CO₂排出量などの環境負荷を数値化するためのデータベース)に従い、買い取り品の素材や重量から計算しているという。
桑田社長は「お金だけではお客様には満足してもらえない。社会に役立っているという実感をもってもらえるようにしたい」と話す。不用品を売却しても大きな金額にはならない。「それならわざわざ時間を使って買い取り店に行く必要はない」と考える人は珍しくない。しかし、「エコリングで不用品を売れば、お金だけでない満足感を得られる」と利用者が思ってくれれば、何度も店に足を運んでくれるというわけだ。
実際、利用者からは「CO₂削減量が具体的な数値で表示されるので、これを機会に環境への負荷を減らしていこうというモチベーションになる」といった反応があった。エコリングのアプリのダウンロード数はエコパラメーターを導入した昨年11月から3万4000以上増え、今年3月20日時点で約15万に達するという。22年の来店人数も約60万人と21年比で1.5倍に増えている。
企業の公益性を示す「Bコープも取得」、採用にもプラスに
同社は公益性に配慮した企業を示す「Bコープ」にも認定されている。Bコープは米国の非営利組織Bラボが認定する認証制度。企業統治、従業員の人材開発、地域社会との関わりなど五つの観点から約200の質問に企業が裏付けとなるデータとともに回答し、スコア化される。スコアは公開され、世界の投資家が社会課題や環境問題の解決に取り組む企業に資金を投じる「インパクト投資」をするための判断材料になっている。
エコパラメーターの導入やBコープの取得は、社内外で好影響を及ぼしている。桑田社長は「社員たちがCO₂削減への意識が高くなり、会社への誇りをより持てるようになった。採用数の増加にもつながっている」と指摘。「エコリングがBコープに認定されたことを知って、シンガポールの学生がアルバイトにきたいと連絡してくれた。特に1990年代半ば以降に生まれた『Z世代』の若者たちは環境問題への関心が強く、企業イメージの向上にもつながっている」と胸を張る。
児童養護施設の卒業生やアジアの貧困層を支援
社名の「エコリング」には、エコロジーの輪(リング)を広げていくという意味がある。その社名を地で行くかのように、同社は複数のSDGs関連の施策に取り組んでいる。例えば「天使園プロジェクト」。児童養護施設では一般に18歳になると施設を卒業しなければならない。しかし、若くして1人暮らしできる経済力を持つ人は少ない。このため、エコリングでは自社で買い取った電化製品などの一部をこうした若者たちに寄贈している。買い取り店の利用者が海外旅行で余った外貨をエコリングの店舗に寄付し、それをエコリングが日本円に換えてノートパソコンを購入、施設を卒業した人に無料で送る活動も続けている。
「えがおプロジェクト」では、協力してくれる企業の店舗や事務所、施設などに専用の寄付BOXを設置。衣料品やカバン、靴、おもちゃ、時計、楽器などを寄付してもらい、アジアの貧困層の子供たちに送っている。
「喜んでくれた子供たちの笑顔を見ると、また役に立ちたくなる」と桑田社長は話す。その言葉の中に、リユースサービスを通じてビジネスとSDGsを両立するエコリングの原点を見た気がした。
(編集協力 P&Rコンサルティング)
【筆者プロフィール】
かとう しゅん
加藤俊
(株式会社SACCO社長)
企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki(https://coki.jp/)」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。