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経済・企業 SDGs最前線

⑩ダイブ――グランピング施設の企画・開発で地方にレジャー客を呼ぶ 既存の公共施設や遊休地を最大限活用

ダイブの増田勇人・地方創生事業グループゼネラルマネージャー
ダイブの増田勇人・地方創生事業グループゼネラルマネージャー

 国連が2015年に採択した、17の目標から成るSDGs(持続可能な開発目標)。世界の企業の間で、社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すSDGsを成長戦略の柱として取り込む動きが広まっている。エコノミストオンラインの連載「SDGs最前線」では日本でSDGsを実践し、実際にビジネスに活かしている企業を取り上げていく。

 第10回目は、リゾートバイト派遣サービスのダイブ(東京・新宿)を取り上げる。同社は地方の遊休地などを活用したグランピング施設の企画・開発を進めている。宿泊施設のリノベーションやグランピングを通じて、過疎化が進む地方の再生を目指す。ダイブの増田勇人・地方創生事業グループゼネラルマネージャーは「観光やインフラのポテンシャル(潜在力)を持つ地方をデザインし直して活性化したい」と話す。

【ダイブが実践する主なSDGsの目標】・目標8(働きがいも経済成長も)・目標11(住み続けられるまちづくりを)

阿波地区に人口の15倍のグランピング客

 山あいの深い緑の中に、10張の白いグランピング用テントと5棟のロッジが広がる。無料WiFiや上下水道、サウナを完備。若者らは近くの川で渓流釣りに興じ、畑では野菜の収穫体験をする子供の姿もある。スキーや乗馬を楽しむことも可能だ。ここは岡山県津山市の阿波(あば)地区。人口はわずか400人、実際に住んでいる人は200人にすぎない小さな集落だ。

 グランピングとは、グラマラス(豪華な)とキャンプを組み合わせた造語。キャンプ道具を用意しなくても、気軽かつおしゃれにキャンプを楽しめるのが特徴だ。「手軽かつ便利に、自然と触れあいたい」という人たちに人気を集めている。

 ダイブが、過疎化の進むこの地区にグランピング施設「ザランタンあば村」を開設したのは2021年5月のことだ。都心部からのアクセスが良いとはいえず、積雪も多い阿波地区だが、21年から旅行客が急増。2年の累計で人口の15倍以上、住人の35倍に当たる7000人もの人たちが訪れた。22年暦年の売上高は約8000万円にのぼっている。

ダイブの岡山県津山市阿波地区のグランピング施設
ダイブの岡山県津山市阿波地区のグランピング施設

既存施設の徹底活用で料金をライバルの半額に

 ダイブのグランピング事業で面白いのは、限界集落や観光振興がうまくいっていない地方の村をターゲットにしていることだ。同社の増田氏は「良質な観光資源があるにもかかわらず、自治体がうまくマーケティングできないために観光地になれない地域は国内にたくさんある」と指摘。「当社が持つノウハウをいかせば、過疎化している町の再生や雇用・人口増に貢献できる」と話す。

 もう一つの特徴は、既存の公共施設や遊休地を最大限活用することにより、宿泊料金を安くできることだ。地方には、バブル期の「ふるさと創生事業」や地方交付税交付金、特別融資などで建設されたものの、ほとんど使われなくなった国民宿舎や公共施設が少なくない。ダイブはこうした施設を有効活用してコストを抑えている。

 例えば、管理棟やレストランに近くの公共施設を使ったり、入浴施設には古い民間ホテルをリノベーションして使ったりする。グランピングのテントを張るのは、公共施設の隣にある遊休地だ。このため、新しく管理棟などを建設するのに比べると、大幅に設備投資を抑制できる。

 同社が関東、関西の都心部の20~50歳の女性315人に「グランピング施設に宿泊してみたいか」との質問したところ、94.6%が「はい」と回答した。一方で、一般的なグランピングの料金である2万円以上を許容範囲と答えた人は1割強。1~2万円を許容範囲とした人は65.7%にのぼった。ダイブの施設の利用料金はグランピングの平均料金の半額の1万4000円程度(1泊2食付き)に抑えられているという。

ダイブの阿波地区のグランピング施設で渓流釣りに興じる人たち
ダイブの阿波地区のグランピング施設で渓流釣りに興じる人たち

地方の雇用も創出、2026年6月期にグランピングで売り上げ20億円目指す

 ダイブは阿波地区の雇用にも一役買っている。同社の事業は、温泉施設なども含めて40名の雇用を創出。これは同地区の人口の1割、住人の2割に当たる比率だ。スタッフの時給も1100円と都心並みの水準だといい、賃金の面からも地方経済の活性化を後押ししている。

 グランピング事業は自社の業績拡大にも貢献している。2023年時点で岡山県に加え、佐賀県、北海道、栃木県、茨木県など全国5か所に事業を拡大。2022年度の売上高は約3億8000万円と初年度(2019年度)の約370倍に急増した。ダイブの増田氏は、グランピング事業について「さらにサービスを拡大し、2026年6月期に20億円の売上高を目指す」と意気軒高だ。

ダイブの施設では農業体験もできる
ダイブの施設では農業体験もできる

地方のグランピング施設の集客も支援

 ダイブは19年8月から、グランピング施設に特化した検索・情報サイト「GlamPicks(グランピックス)」も始めた。グランピング施設は通常の旅行サイトでは、一般の宿泊施設に埋もれて見つけづらい。このためグランピング専門サイトをつくり、集客につながりやすくした。

 サイトでは、それぞれの施設を写真付きでわかりやすく紹介し、クリックすれば掲載施設のホームページに移動できる。掲載料は無料だ。自社のホームページを持たないグランピング施設には5万円程度で公式サイトもつくるという。グランピング施設の集客を支援し、地方の活性化につなげる試みだ。

 SDGsは目標11で「住み続けられるまちづくりを」とうたっている。しかし、少子・高齢化と都市への人口集中を背景に、日本の地方は将来にわたって「住み続けられる」とは言い難い状況だ。民間の日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)は14年、全国の市区町村の半数を「消滅可能性がある」と発表し、警鐘を鳴らした。当時名指しされた多くの自治体は、人口流出や経済の衰退に頭を抱えたままだ。ダイブの事業は、短期的には地方経済の活性化につながり、中期的には都心からの移住の増加など過疎の町を「住み続けられるようにする」可能性を秘めている。(編集協力 P&Rコンサルティング)

【筆者プロフィール】

SACCO社長加藤俊氏
SACCO社長加藤俊氏

加藤俊

かとう・しゅん(株式会社SACCO社長)

 企業のSDGsに関する活動やサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するメディア「coki」を展開。2015年より運営会社株式会社Saccoを運営しながら、一般社団法人100年経営研究機構 『百年経営』編集長、社会的養護支援の一般社団法人SHOEHORN 理事を兼務。cokiは「社会の公器」を意味し、対象企業だけでなく、地域社会や取引先などステークホルダー(利害関係者)へのインタビューを通じ、優良企業を発掘、紹介を目指している。

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