野菜も事業発想も「規格外」――平井康之さん
エクネス代表取締役CEO 平井康之
農家を訪ね歩いて規格外野菜を集め、フードロス解消に取り組む。34歳で心機一転、社会貢献を仕事にすると決めた。(聞き手=北條一浩・編集部)
捨てられてしまう野菜が大量にある現状を変えたいと思い、規格外野菜を専門に扱う事業を行っています。フードロスを減らして解消することを目指しており、この事業を「ロスへル」と称しています。
きっかけは、とある米国の会社が規格外の野菜と果物の取り扱いをサブスク(定額サービス)で始めたところ、創業4年で売り上げ1000億円を達成したというニュースを見たこと。会社設立時から、地球環境の改善に役立つ事業をやりたいと考えつつ糸口がつかめずにいましたが、「これだ!」と直感しました。
さっそく1年間かけて全国の農家を訪ね歩きました。すると出てくる出てくる、規格外野菜がどんどん出てきます。現在50軒ほどの事業提携した農家から規格外野菜を買い取って福井にすべて集め、そこからパッケージングして全国に配送しています。
カタチがいびつな野菜はなぜ捨てられるかといえば、まず取り扱いの問題があります。物流の際は曲がっていないほうが箱詰めしやすく、カットする時も曲がっていると機械に入りにくいんですね。そして消費者。スーパーで見て、「きれいじゃない」と敬遠する。日本では年間200万トンもの野菜がゴミになっているといわれます。飢餓に苦しむ人がいま世界中に8億人いるとされていますが、野菜を含めた日本のフードロスだけでその8億人分を賄えるという見方もあります。
「規格外」という概念自体が差別的なものなんですね。普通に育てていれば、中には曲がったニンジンなど、できてあたりまえです。人間だって、背の高い人や低い人がいるし、人種もさまざま。おいしさにまったく遜色がないのに見た目で排除されるなんて、「黄色人種は美しくないから」といわれているようなものです。
「きれいごと」を本気でやる
会社を立ち上げる前、10年近くウェブシステム開発の会社で働いていました。子供が寝る時刻に帰ったことがない仕事人間で、家庭を顧みない男でした。だんだん「いったい何のために生きてるんだ」と考えるようになり、3年間苦しみ抜いた果てに「これからは人のため、地球のために生きる。社会貢献を仕事にする」と決めました。「きれいごとだ」といわれようが、そのきれいごとを一生貫きます。
働きやすさも追求します。今の会社は70人の従業員の6~7割が10歳以下のお子さんのいる女性。「子供に少し熱がある、どうしよう」と迷う時など、どんどん休んでもらっています。
ロスヘルの他には、国産眼鏡の96%のシェアを誇る福井県鯖江市にあって、品質の高い眼鏡にかかわる事業も手がけています。さらには、さまざまな書体を作り出し、ロボットに味わいのある手書きの手紙を書いてもらう「ロボットレター」事業も展開中です。
多様な事業を行っていますが、中心はあくまで気候変動の改善に取り組み、社会貢献すること。いま地球全体で排出されている二酸化炭素(CO2)のうち、日本の排出は3%といわれていますが、その3%のうちの1~3%くらいは弊社の事業で解消したいと願っています。
企業概要
事業内容:規格外野菜を扱うフードロス事業、手紙代筆サービス事業、オプティカル(眼鏡)事業、経営およびウェブコンサルティング事業
本社所在地:福井県鯖江市
設立:2018年3月
資本金:350万円
従業員数:70人
週刊エコノミスト2023年5月23・30日合併号掲載
平井康之 エクネス代表取締役CEO 野菜も事業発想も「規格外」