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経済・企業 挑戦者2023

困難なサンゴ飼育をビジネスに――髙倉葉太さん

たかくら・ようた 1994年兵庫県生まれ。幼少期は昆虫に興味。中学生の頃から趣味で魚やサンゴの水槽飼育を続ける。2017年東京大学工学部機械工学科卒業。同大学院で機械学習などを研究。19年大学院修了。同年イノカ設立。(撮影 武市公孝)
たかくら・ようた 1994年兵庫県生まれ。幼少期は昆虫に興味。中学生の頃から趣味で魚やサンゴの水槽飼育を続ける。2017年東京大学工学部機械工学科卒業。同大学院で機械学習などを研究。19年大学院修了。同年イノカ設立。(撮影 武市公孝)

イノカ代表取締役CEO 髙倉葉太

 サンゴの飼育は非常に困難といわれる。それにチャレンジして社会貢献型事業につなげることに成功した。(聞き手=和田肇・編集部)

>>連載「挑戦者2023」はこちら

 水槽でサンゴを飼育できる技術(海洋生物の生息環境を再現)を生かして、企業の製品試験の受託事業や環境教育事業などを行っています。例えば、製品受託試験では、化粧品メーカーが開発した日焼け止めクリームが、サンゴにどう影響するかなどの試験を請け負っています。鉄鋼メーカーからは製鉄スラグを活用した水質浄化試験などです。環境教育は、私たちの水槽を用いて、最先端の海洋教育プログラムを提供しています。企業や商業施設、最近ではキッザニアなどから依頼を受けています。

 サンゴは非常に繊細な生物で一般の人には飼育が困難です。サンゴは生物として実に多様性に富んでいて、無脊椎(せきつい)動物なのに光合成ができる、光るたんぱく質を体内に持つなど、大変興味深い海洋生物です。私たちは物理、科学、生物学面で約30のパラメーターを制御して、サンゴを飼育しています。そうした複雑な条件をどれぐらい持続できるかがサンゴ飼育の一番難しい点です。

 何が飼育に重要というのはなく、複雑な条件の全てが重要で、例えば、窒素やリンなど一つの栄養素がうまくいかないと全てのバランスが崩れ、サンゴが病気になり死滅してしまいます。ですので、私たちは水槽でそのサンゴが生育に適した実際の海に近い状況を再現しており、これを「環境移送技術」と呼んでいます。いま世界でいろいろな海洋生物が死滅の危機にありますが、代表的なのがサンゴです。2040年には世界のサンゴの8~9割が死滅するといわれ、サンゴに依存する海洋生物は海洋生物全体の25%もいるので、サンゴの死滅は非常に大きな生物多様性の損失になるといわれています。現在、世界の約800種類のサンゴのうち、430種類が沖縄近海に生息しています。日本は知られざる世界の「サンゴ大国」です。

今後は海藻類も研究

サンゴの飼育に多くの機材を用いている イノカ提供
サンゴの飼育に多くの機材を用いている イノカ提供

 私は中学生の頃から、趣味でいろいろな魚を水槽で飼育してきましたが、サンゴだけはどうしてもうまくいかない。「こんなに面白い生き物がなぜ注目されないのか」と思うようにもなっていました。

 大学は工学部機械工学科に進みました。やがて自分の好きなサンゴでイノベーションをやってみようと考え、大学院に入って2年間準備をして、この会社を立ち上げました。資金調達は銀行融資と自己資金です。ベンチャーキャピタルからは断られました。設立して3年ぐらいは事業と関係ないプログラミングの仕事などをして、何とか食いつないでいました。軌道に乗ってきたのはここ1年ぐらいでしょうか。黒字化も達成していますし、そろそろ会社も次のステージに行きたいと考えています。

 企業の脱炭素(TCFD、気候変動関連の財務情報開示)の次に来る動きとして、「TNFD」(自然関連の財務情報開示)が出てきています。今後は海藻類もやっていきたいです。日本には約2000種類の海藻がありますが、最近はどんどん減少しています。海藻の生育情報はあまり分かっていません。


企業概要

事業内容:サンゴなど海洋生物の水槽飼育を活用した製品評価、環境コンサルティング、環境教育事業

本社所在地:東京都港区

設立:2019年4月

資本金:1150万円

従業員数:20人


週刊エコノミスト2023年5月16日号掲載

挑戦者2023 髙倉葉太 イノカ代表取締役CEO 「サンゴ大国日本」を生かす事業

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