タイと日本に恩を送りたい――比護千春さん
比護千春 コリ企画代表取締役
自分の好奇心と、好きなものをタイと日本のみなさんと共有し楽しんでもらいたい、という気持ちがすべての原動力です。(聞き手=金山隆一・編集部)
タイの方々への日本の観光PRに力を入れているのでインバウンド(訪日客)ビジネスの会社と思われますが、その意識はありません。社名の通り、いろいろなことを企画するのが仕事です。
始まりは日英タイ語の通訳・翻訳ですが、現在は映画やドラマなど撮影のコーディネートが一つの柱です。
大学でタイ語を専攻し、卒業後にタイのチュラロンコン大学の大学院に入学しました。現地で起業すれば就労ビザが取れると分かり、留学中の2005年に通訳や翻訳の会社を設立しました。これがコリ企画の始まりです。
当時タイは経済成長が期待される東南アジアの玄関口。国際会議も多く、日本の公的機関や企業トップの訪タイも多かった。私は日本語と英語、タイ語の3カ国語の通訳ができたので、仕事を通じてネットワークが自然に広がっていきました。日本の観光PRに協力した最初は08年。日本政府観光局(JNTO)の紹介で長崎県や岐阜県などのPRを始めました。
ある時、タイの映画監督から長崎県の軍艦島(端島)をオールロケで撮影し、映画が撮れないかと相談されました。そこでロケ地の選定からキャスティング、広報、企画全体に協力しました。13年10月には映画「ハシマプロジェクト」としてタイ全土で公開され、アジア各国でも上映されました。これが長崎県の観光誘致に貢献したと評価され、14年にJNTOのジャパン・ツーリズム・アワード(タイ)を受賞しました。
15年にはタイの俳優が出演するタイの地上波ドラマ「ライジング・サン」の千葉県を舞台にした撮影に協力しました。16年にはタイ初の本格的な香川県の旅行ガイドを1年かけて作成。これらの取り組みで3年連続ジャパン・ツーリズム・アワード(タイ)を受賞しました。
どの仕事も日本の文化と生活、美しい地元ならではの風景、タイ人アーティストが興味を持つ瀬戸内国際芸術祭の様子などを正確に伝えることに務めました。何がタイの人たちの興味をひくか、どんなことがインスピレーションになるか、を考えました。
タイに育てられた
タイの歴史や文化、仏教には強い関心があります。タイ研究で有名な石井米雄先生の指揮の下、数年かけて、コリ企画として仏教書「三印法典」のコンピューター検索システムの開発にも携わりました。この事業は08年に完成後、タイ王室に献上させていただきました。
学生時代に結婚し、子育てしながらバンコクで働きましたが、タイは多様な社会で乳児を仕事場に連れて行っても快く受け入れてくれる。社員は私を除きタイ人でみな長く働いてくれる。私を育ててくれた日本とタイの人たちに恩を送りたい。若い世代にどうこの思いを伝えるか、「恩送り」が私の仕事です。
今年は福島、栃木を舞台にしたタイの映画をプロデュースします。
企業概要
事業内容:日本とタイを結びつけるメディアプロデュース、観光PR、タイ市場への進出サポート、日英タイ語の通訳・翻訳など
本社所在地:タイ・バンコク
設立:2005年3月
資本金:400万バーツ(約1600万円)
従業員数:9人
週刊エコノミスト2023年6月13日号掲載
比護千春 コリ企画代表取締役 タイと日本に恩を送りたい