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フューエルセル・エナジー 燃料電池の米国大手 長谷川祐子

フューエルセル・エナジーが建設し、2022年12月に商用稼働した米海軍潜水艦基地内の燃料電池 フューエルセル・エナジー提供
フューエルセル・エナジーが建設し、2022年12月に商用稼働した米海軍潜水艦基地内の燃料電池 フューエルセル・エナジー提供

FuelCell Energy 米海軍向け設備が稼働/81

 フューエルセル・エナジーは「燃料電池」の米大手。米エネルギー省のウェブサイトによれば、燃料電池とは「水素やその他の燃料に含まれる化学エネルギーを使ってクリーンで効率的に発電する」装置。水素を燃料とする場合、発生するのは電気、水、熱だけという。4月に来日したジェイソン・フュー社長兼最高経営責任者(CEO)は業界紙『電気新聞』の取材に「可動部がなく、静穏で住宅やオフィスへの導入にも向く。他社と異なり高温で稼働できるため、効率が非常に高い」(同月11日付)と説明した。実用化されており、トヨタ自動車は2014年、燃料電池車「ミライ」を世界で初めて量産・市販した。

韓国企業が貢献

 1969年、化学工学者のバーナード・ベーカー(故人)とマーチン・クライン氏がフューエルセル・エナジーの前身企業を設立した(99年に現社名に改称)。2人は70年、米北東部コネティカット州で実験室を借り、低温型の燃料電池や酸化銀電池の開発に取り組んだ。90年に天然ガスを燃料とする燃料電池の実験設備をエネルギー省に納入する契約を結び、2年後にナスダック証券取引所に上場。2003年、同社として初めて納入した商用設備がキリンビール取手工場(茨城県取手市)で稼働した。

 22年版の年次報告書によれば、同年10月期売上高の87%は納入先7社によるものだった。各社の売上高構成比は韓国鉄鋼大手ポスコ系の韓国フューエルセル(46%)▽米コネティカット電灯電力(14%)▽米エクソンモービル・テクノロジー・アンド・エンジニアリング(8%)▽韓国南部発電(6%)▽米エネルギー省(6%)▽米ロングアイランド電力公社(5%)▽米製薬大手ファイザー(2%)──と、韓国企業の貢献が大きいことが分かる。

 22年11月~23年1月期売上高は前年同期比17%増の3707万ドル(約52億円)。粗利益は黒字転換したが、営業損失は同50%減の2245万ドル(約31億円)だった。同期の売上高には、コネティカット州の発電所と韓国南部発電向けの更新設備それぞれ2件を含む。さらに、同州の米海軍潜水艦基地に納入した商用設備が期間中に稼働したことなどから、発電収入は前年同期比27%増加した。電力事業者や軍も、燃料電池を緊急時に使える電力供給源と位置付けていることがうかがえる。

 今年中に商用稼働を始める予定のプロジェクトが2件ある。一つ目はトヨタの米法人向けに西部カリフォルニア州ロングビーチ港に建設した設備だ。二つ目はフューエルセル・エナジーがコネティカット州に建設中のプロジェクトだ。自社運営して売電する。

日本法人を設立

 フュー社長兼CEOは3月9日の決算発表会で、事業の先行きについて「再生可能エネルギー技術を勢いづかせるカギは米国のインフレ抑制法だ」と述べた。同法はバイデン政権の目玉政策として22年8月に成立し、再エネ発電施設の建設やクリーン水素の製造に携わる事業者に過去最大規模の税控除を盛り込んだ。他の事業を含めた歳出総額は今後10年間で4370億ドル(約61兆円)に上る。

 フュー氏は米国外でも同様の政策的後押しがあるとして、欧州連合(EU)が米国に対抗して今年2月に発表した総額2500億ユーロ(約37兆円)の「グリーンディール産業計画」のほか、韓国政府が「40年までに燃料電池車の生産台数620万台、水素ステーションの設置数1200カ所」を目標として19年に策定した「水素経済活性化ロードマップ」を挙げた。

 今年4月、日本法人「フューエルセルエナジージャパン」が事業を始めた。前述した『電気新聞』の記事によれば、来日したフュー氏は同社を設立した意図について「アジアを対象とする協業契約を韓国企業と結んだが、彼らは自国に集中する方針で考え方に相違があった。その契約が終了したため」と話した。電力・ガス事業者向けや水素ステーションの需要を見込むという。

(長谷川祐子・ジャーナリスト)


トヨタ向けの水素設備 今年7月にも稼働予定

 フューエルセル・エナジーは2017年、トヨタ自動車の米法人向けに燃料電池設備を供給することで合意した。トヨタの同年12月1日付発表文によれば、「燃料となる水素を生み出し、2.35メガワットの発電が可能な燃料電池(FC)発電所および水素ステーションを併設する」というもの。

 2.35メガワットは米国の一般家庭約2350世帯の1日当たり消費量、新設備が生み出す水素約1.2トンは燃料電池車約1500台の1日当たり平均走行距離に必要な充填(じゅうてん)量に相当するという。

 発表によれば、同州の畜産場で生じる家畜排せつ物や汚泥などの廃棄物を燃料に使うという。つまり、再生可能エネルギーを使って水素、電気、水を生み出すわけだ。

 フューエルセル・エナジーの開示資料によると、両社の契約上、今年7月8日までに商用稼働することになっている。

(長谷川祐子)


企業データ

本社所在地 米国コネティカット州ダンベリー

CEO ジェイソン・フュー(Jason B. Few)

時価総額 8億7638万ドル

総資産 9億3971万ドル

売上高 1億3048万ドル

当期純損失 1億4592万ドル

従業員数 513人

上場取引所 ナスダック証券取引所

(注)数字は2022年10月期。時価総額は23年6月5日現在


週刊エコノミスト2023年6月27日・7月4日合併号掲載

フューエルセル・エナジー クリーンな発電「燃料電池」大手=長谷川祐子/81

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