8000メートル超の14座制覇に王手――渡辺直子さん
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登山家・看護師 渡辺直子/87
標高8000メートルを超える世界14座のうち、看護師で登山家の渡辺直子さん(41)がエベレストなど13座の登頂を果たし、全座登頂まであと一歩に迫っている。「自分はただのド素人」と話す渡辺さんの素顔に迫った。(聞き手=中西拓司・編集部)
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「『山への休憩』がいつの間にか記録になった」
── 昨年8月に標高8080メートルの世界11位ガッシャブルムⅠ峰(中国・パキスタン国境)登頂に成功し、世界に14座ある8000メートル峰のうち、登頂していないのはシシャパンマ(中国、8027メートル)1座となりました。
渡辺 今年5月、9年ぶりにマカルー(中国・ネパール国境、8463メートル)に登頂し、山頂を踏んでいないものも含めると、8000メートル峰の登山自体は計25回です(今年6月現在)。これだけ登った女性は世界にもいないと思います。とはいえ、14座を全て登頂する目的で山登りをしてきたわけではありません。看護師として働きながら、そのお金を使って「山へ休憩しに行く」ような感じでした。
── 「山へ休憩」ですか。
渡辺 山での生活が本当に楽しく、一つ一つの山を楽しんで登っていたら、いつの間にか記録につながっていた感じです。例えば、(頂上を目指す際の拠点となる)ベースキャンプで顔見知りのシェルパ(現地の登山ガイド)たちと話すことも楽しいし、キッチンで料理づくりを見たり、キッチンスタッフとたわいもない話をしたりするのも楽しみです。壮大な景色の中でダウンロードした音楽を聴いたり、日本のバラエティー番組を見たりすることもストレス解消です。
ベースキャンプには、世界各国から有名な登山家が集まってきますが、自然の中ではお互い「一人の人間」として交流できます。都会ではありえない非現実なことが起こることも山の魅力の一つです。私の場合は、頂上を踏むことだけではなく、山の生活をまるごと楽しむことが目的です。
8000メートル超の山は、中国やパキスタンなどにまたがるヒマラヤ山脈と、カラコルム山脈に14座ある。渡辺さんは2006年、世界6位のチョ・オユー(8201メートル)から登り始め、昨年はローツェ(8516メートル)、ナンガ・パルバット(8126メートル)、ガッシャブルムⅡ峰(8035メートル)、ブロード・ピーク(8051メートル)、ガッシャブルムⅠ峰(8080メートル)、マナスル(8163メートル)と立て続けに登頂を成功させた。 14座すべて登頂した人は「14サミッター」と呼ばれる。14サミッターの人数については諸説ある。登頂したと個人が主張しても、実際には山頂の踏み間違いなどのケースもあるためだ。女性では、中国の登山家が今年4月、最後のシシャパンマを登頂し、民間の山岳ウェブサイトは「女性初の14サミッター」と評価した。渡辺さんにとっては先を越された格好だが、今年秋にもシシャパンマへの登頂を目指している。
私は「ただのド素人」
── 登山にはかなりの体力が必要です。体をどう鍛えているのですか。
渡辺 実はトレーニングをしていません。時間がなくて取り組めていない状態です。私自身はただのド素人です。登るのも下手で技術もないので、私を見て「自分でも登れるのではないか」と身近に感じてほしいと思います。高所登山では(高所に体を慣れさせる)「高度順応」が大事だと思っています。低い標高からベースキャンプまで時間をかけて歩き、高所に体を順応させることが特に大事ですが、最近は慣れてしまったせいか、高山病にほとんどならなくなりました。
かつての高所登山は、ベースキャンプから二、三度、1000~3000メートル登って高度順応してから頂上にアタックする流れでしたが、世界最高峰のエベレスト(8848メートル)の場合なら、最近はヘリコプターで首都カトマンズからベースキャンプ(約5300メートル)までの往復を何回か繰り返して高度順応し、ベースキャンプから(一般的には7000メートル超で使う)酸素ボンベを使って登頂する人など、登り方は多様化しています。事前にトレーニングしないでエベレストに挑戦する人は今たくさんいます。
── とはいえ、8000メートル峰の登山は限られた登山家の世界という印象が強いです。
渡辺 情報操作の影響もあると考えています。私は8000メートル峰の固定したイメージを壊したいと思っています。もちろん(氷壁や岩壁などでより困難な)バリエーションルートもありますが、興味がありません。一方で、エベレストの一般的な登頂ルートには大勢の登山者が訪れるので「階段」ができているし、ベースキャンプでは、(自分でテントや食事を用意する必要がない)グランピングが楽しめるほど環境が充実しています。ドームテント内には人工芝生が敷かれ、テレビや暖…
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週刊エコノミスト
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