コンドームの達人――岩室紳也さん
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泌尿器科医 岩室紳也/86
神奈川県を中心に、性教育と性感染症予防に約30年、真正面から取り組み続ける人がいる。時代が移り変わる中で感じるのは、若者に性の知識が乏しくなっていること。それが今、梅毒の感染拡大としても現れる。(聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)
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── 梅毒の感染者数が急増しています。今年も7月2日までで国内の感染者数が7448人と、過去最多の昨年を上回るペースです。
岩室 一つの要因はSNS(交流サイト)の出会い系アプリですね。アプリを通して知り合った不特定多数の人と気軽に性的交渉をする。そこから感染が広がっていくんですよ。もう一つは外国人旅行者の増加です。日本の性産業は外国人にめちゃくちゃ人気が高い。梅毒なんて昔の病気だと思われていますが、そうではない。梅毒が増える環境はしっかりあるんです。
── コンドームを付けていても予防できないんでしょうか。
岩室 実は完璧には予防できないんです。なぜかというと、ペニスに、あるいは膣(ちつ)の中に病変があったりする場合は、コンドームを付けていればそこに触れないから有効なんですが、梅毒は股など体のいろんな部位に感染します。肌と肌の触れ合いだけでも移る。サル痘もそうです。コンドームを使ってもダメだということが、梅毒が広がる一番の理由です。
もう一つの理由は同性愛。妊娠が起こらないので(避妊を目的として)コンドームを使う必要がない。しかも、治療をしていれば、エイズに関してはコンドームが要らない。そういうことが分かっているから、使わない人が結構いるんです。もちろん、性産業も(理由として)ありますが、梅毒は人が肌と肌を寄せ合うことで移る感染症なんです。
梅毒の国内の感染者数は2022年、1万3228人を記録し、国立感染症研究所によれば現行の報告制度で統計を取り始めた1999年以降、過去最多となった。梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌に感染することで発症し、しこりや発疹(ほっしん)などとして現れる。一時的に症状が消えることもあるが、治療しなければ体内に潜伏し続け、数年にわたって全身に拡大。臓器などに病変をきたし、最悪の場合は死に至る。 かつては「不治の病」と恐れられていた梅毒。抗生物質ペニシリンの発見によって治療法が確立し、国内の梅毒感染者数も約1万1000人が報告された67年以降、減少に転じていた。しかし、827人が報告された11年ごろから、感染者数は再び増加傾向をたどり始める。特に、梅毒の知識を持たない若者が増え、自覚のないまま性交渉などを通じて感染が拡大。今年に入っての感染者の割合でも20代が34.9%を占め、女性では20代が56.2%と突出する。
包茎の模型「チャンピオン」
── 岩室さんは厚木市立病院泌尿器科(神奈川県厚木市)の医師を務めながら、「コンドームの達人」として学校での講演もかなりの数こなしています。
岩室 一番多いのは中学校、高校です。まだ少ないけれど、大学にも行って講演しています。新型コロナウイルスが流行する前は、年間100回ぐらいやっていましたね。その後、コロナの感染が拡大して一時中断したけれど、今年5月に(感染症法上の区分が)5類になって以降、講演の依頼が増えてきました。今後、北海道から沖縄まで行く予定です。
── 子どもたちにはどんな話を?
岩室 基本となるのは経験談です。例えば、私が初めてエイズを診ようとした時、恐怖でパニックになったこと。そして、ウイルスはどこから来てどこへどうやって行くのか、という話をします。私が最初にエイズの患者を診たのは日本人の女性でした。夫から感染して、子どもを残して、結局は夫婦2人とも死んじゃった。そういう話をすると、やはり怖い病気だと思ってもらえます。
遊んでいる人、単純にセックスをした人の病気という話にはしません。性感染症になったある大学生は、「僕が付き合っている人は普通の子ですよ」と言うんです。でも、「コンドームを付けないことがあったんじゃないの」と聞くと、「ありました」というわけです。遊んでいるとかいないとかの問題じゃない。コンドームを付けずに性行為をしたことが原因なんです。そういう話をして、最後にコンドームの付け方を教えます。
── コンドームの付け方は、自然に覚えるものではないのですか。
岩室 ほとんどの男性は自分で付けられるけれど、付け方を真剣に考えたことがない。自然というのは独学ということです。独学には間違いや失敗もある。そこでたどり着いたのが(カバンからペニスの形をした模型を取り出して)、日本人に多い包茎の模型です。「チャンピオン」と呼んでいて、かぶれば包茎、むければOK(大笑い)。ちょっとだけ亀頭が出ているとか、いろんな人がいますからね。
次はコンドーム。袋を開ける時は端っこまで開…
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週刊エコノミスト
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