時代を映して「こまつ座」創立40周年――井上麻矢さん
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劇団「こまつ座」社長 井上麻矢/90
今年40周年を迎えた劇団「こまつ座」を率いる井上麻矢さん。創立者で作家の父・井上ひさしさんから劇団を託されたのは14年前。麻矢さんはひさしさんの遺志を継ぎ、演劇で平和のバトンを渡し続けたいと語る。(聞き手=りんたいこ・ライター)
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── 1983年創立の劇団「こまつ座」が今年40周年を迎えました。2010年に亡くなった父・井上ひさしさんと、母・西舘好子さんが立ち上げた劇団ですね。
井上 演劇は水商売と同じで、常に時代の大きなうねりの中にいます。40年前の作品の問題提起をそのまま手渡すのではなく、自分たちのフィルターを通して、演劇に織り込んで渡す。そういう作業が演劇なのだと痛感しています。
観客の方が求めているものも変わります。形あるモノは、トレンドはあるにせよオリジナルに価値を見いだせますが、演劇は昔のままやっていたら多分うまくいかないだろうということは、代表を14年やってきて身に染みて分かったことです。
── 上演するのは井上ひさしさんが書いた戯曲が中心です。同じ戯曲をやり続けるうえで、どのような工夫を?
井上 同じことをやっているようで、実は全然違うんですね。お芝居って、戯曲はそのままでも演じる俳優が変われば、その人の個性や生きてきた中で蓄積したものが必ず芝居に反映されます。そのため、変えようと意識しなくても変わるものなのです。演出家も前と同じものを作ろうとする人は一人もいません。しかも、演劇は世の中を映す鏡と言われるように、時代背景などいろんなことが作品に別の力を注ぐのです。
例えば、今年8〜9月に全国4都市で公演の「闇に咲く花」では、それまで立派だった神楽堂の屋根を、一部は焼けただれたままにしました。ロシアのウクライナ侵攻もあって戦争がリアルになっている中、物語の中の人たちは戦後2年たっても闇米の調達に奔走している。それなのに、屋根がきれいなままでいいのだろうかという疑問が、演出家や美術から出たのです。
そういうことをみんなで一つずつチェックしていく。ですから必然的にブラッシュアップせざるを得なくなるのです。
「闇に咲く花」は1947(昭和22)年夏、東京・神田の愛敬稲荷神社が舞台。境内の建物はほとんどが空襲で焼失する中、唯一焼け残ったのが神楽堂だった。その神主の元に戦死したはずの息子が帰還し、喜び合ったのもつかの間──というストーリー。こまつ座は年間4〜6作品を、北海道から九州まで巡演し、年間200〜250ステージをこなす。共催なども含めれば、旗揚げから40年で150公演以上を数える。 井上家の三女として生まれた麻矢さんは、18〜19歳にフランスへ留学。帰国後に就いたホテルマンの仕事が性に合って「そのまま骨を埋める」つもりだった。そんな中、ひさしさんから赤字を背負ったこまつ座のテコ入れを頼まれ、09年4月に経理として入社。その後、がんと診断されたひさしさんに「社長業を継いでほしい」と請われ、11月、社長に就任した。
4年に1度は新作を世に
── 社長を継いでほしいと言われた時の心境は?
井上 あの時は抗がん剤治療をしながら作家活動と社長業をする父が本当につらそうで、とにかく負担を軽くしてあげたい一心でした。当時の私はこまつ座の芝居は旗揚げから見ていて、経理としてお金のことは分かっていました。けれど、現場がどれだけ苦労して一つの舞台を作っているのかは分かっていませんでした。
父にはよく、「分からないくせに分かったふりをするのはよくない。分からない時は分からないと言いなさい。ただ、次に聞かれた時は分かる人になって」と言われました。周りの人が厳しくて、最初はそれこそ泣きながら仕事に行っていました。でも、あの時に甘やかされなくて本当に良かったと思います。お陰でなんとか代表になる覚悟ができました。
── ひさしさんが残した戯曲はどのくらいあるのですか。
井上 70弱ですね。今までのものを上演し続けることも大事ですが、音程と一緒で、上に上がろうとしないと上演の質をキープできないというポリシーが私たちにはあります。そこで、4年に1度くらいの間隔で、井上ひさしが残した企画を少しずつ新作として世に出しています。それが、13年初演の舞台「木の上の軍隊」であり、18年初演の舞台「母と暮せば」です。
父は、いつも芝居に入れ込まなければいけない項目をすべて箇条書きにしていました。「木の上の軍隊」は、「三線(さんしん)」についてなど、沖縄にまつわる4項目を書いたところで亡くなってしまいましたが、その後もつなげていたら、項目は1000とか2000になっていたはずです。
「木の上の軍隊」は沖縄で敗戦を知らないまま2年間、ガジュマルの木の上に隠れて生き延びた日本軍兵士2人の物語。がんを宣告され…
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週刊エコノミスト
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