教養・歴史書評

人類の進歩を信頼して30年後を生き生きと予測 評者・井堀利宏

『2050年の世界 見えない未来の考え方』

著者 ヘイミシュ・マクレイ(英『インディペンデント』紙経済コメンテーター) 訳者 遠藤真美

日経BP 2750円

 30年前に2020年の世界経済を予測した本が好評だった著者が、本書では2050年というこれから30年先の世界各国の経済状況を予想し、それに至る代替的なシナリオも解説する。

 30年先だと、人口動態はほぼ正確に予想できる。ただし、テクノロジーの進歩については不確実性が大きいし、地球環境の悪化速度も不透明である。さらに、政治統治の混乱や地政学的な対立、新型コロナのような感染症パンデミックや国際金融危機、公的債務不安など、将来のリスク要因は大きい。

 人口動態、資源と環境、貿易と金融、テクノロジー、政府・統治という五つの視点で大胆に分析すると、50年には世界人口の3分の2が中間層か富裕層になる。彼らは適切な医療や教育を受けることができ、満足できる多様な労働機会に恵まれる。30年後の世界は人類史上もっとも良いと予想する。人類の進歩に信頼を寄せる前向きな姿勢は評価できる。

 もちろん、いくつかの悪いリスク要因が顕在化すれば、世界の状況はより深刻化する。それでも、良いシナリオを達成すべく、前向きに考えるべきだという。

 今後30年で最も期待できる国はアメリカであり、優秀な人材を世界から呼び込み、国内の政治や人種間での分断も緩和され、世界のリーダーとして存在し続ける。中国は30年ごろまでは発展するが、その後は人口減少や専制統治機能の難点などから衰退し、むしろインドの方がより活力ある国になりえる。

 ヨーロッパでは、EU離脱の混乱が収まったイギリスが、30年代以降、英語圏の強みを生かして再生し、逆に、EUは内部の調和が維持できず、ユーロも統一通貨のメリットを発揮できず、停滞する。ロシアも衰退したままである。もっとも潜在力があるのは人口が増加するアフリカ諸国で、若い優秀な人材が活躍すれば、ナイジェリアなどは明るい未来が展望できる。日本は超高齢化社会の課題をそれなりに克服するが、安心安全を求めることで、イノベーションは期待できず、グローバル化のメリットを享受しきれない小国にとどまる。

 総じて、著者の出身国であるアイルランドやイギリスの楽観的な予想とEUの厳しい展望について割り引く必要はある。それでも、30年後の世界経済を生き生きと展望しており、刺激的である。文章は読みやすく、30年後には世界の荒波で活躍が期待される若い世代に有益な情報を与えるだろう。

(井堀利宏・政策研究大学院大学名誉教授)


 Hamish McRae 『ガーディアン』『インディペンデント』紙の金融面エディターを歴任。英国プレスアワードの年間最優秀ビジネス・ファイナンス・ジャーナリスト賞受賞。著書に『2020年 地球規模経済の時代』など。


週刊エコノミスト2023年9月19・26日合併号掲載

『2050年の世界 見えない未来の考え方』 評者・井堀利宏

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