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週刊エコノミスト Online 書評

「地方分権が高齢化社会を活性化する」と公共経済学者が提言 評者・井堀利宏

『高齢化の経済学 地方分権はシルバー民主主義を超えられるか』

著者 寺井公子(慶応義塾大学教授) アミハイ・グレーザー(カリフォルニア大学アーバイン校特任教授) 宮里尚三(日本大学教授)

有斐閣 4400円

 少子高齢化が進行している我が国では、「シルバー民主主義」のもとで、高齢者の意向に沿った政策が実施される可能性がある。高齢者は生存期間が若い世代よりも短いので、長期に利益を生む投資的事業よりも、短期の利益が中心の分配的な歳出を好むだろう。その結果、高齢化は公共事業や教育投資への政府支出を抑制し、生産活動の基盤である企業の負担増(法人税や最低賃金の引き上げ)には反対しないとの仮説が成り立つ。

 本書の実証分析では、日本で高齢化がインフラ投資減をもたらすのに対して、アメリカではそうした効果が確認されなかった。その理由として、地方分権の程度が両国で異なることに注目する。連邦制のアメリカでは地方分権が進み、地方間での人の移動も活発であるため、人々は自分の好みに合った地方を選択する「足による投票」が行われている。そのため、現在住んでいる地域のインフラ投資にそれほど関心がない。他方で、そうした地方分権が進んでいない日本では、長く居住する地域の財政支出に関心を持たざるを得ず、高齢化が進む地域でインフラ投資は実施されない。

 ところで、地方分権で複数の特色ある自治体が共存すると、高齢化が進展しても、若い世代が多く住む地域も存続できる。そこではインフラ投資など経済成長のエンジンも整備されるため、その波及効果で経済全体の活性化も期待できる。高齢化に直面する我が国が経済活性化を維持する一つの手段が地方分権であり、若い世代が政策決定できる地域を確保することだという本書の指摘は興味深い。

 本書はこの分野で優れた業績を上げている日米の公共経済学者による共同研究の成果報告であり、叙述は平易で読みやすく、先行研究の紹介も有益である。高齢化に関心のある多くの読者にとって、大いに参考となる。シルバー民主主義を批判するだけでなく、冷静な実証分析に基づいての政策提言は貴重である。

 ただし、高齢化がインフラ投資や教育投資を抑制しているのが事実としても、それがどれほどの弊害をもたらすのかは別問題である。そもそも少子化が進めば教育投資が減少するのは自然だし、高齢化の過疎地域では現状のインフラを維持することすら無駄かもしれない。高齢化の弊害を分析するには、高齢化が財政支出の最適水準に及ぼす効果も併せて検証する必要がある。こうした規範的分析は今後の研究課題であり、さらなる成果を期待したい。

(井堀利宏・政策研究大学院大学名誉教授)


 てらい・きみこ 法政大学経営学部教授を経て現職。経済学部教授。

 Amihai Glazer スタンフォード大学客員研究員等を経て現職。

 みやざと・なおみ 国立社会保障・人口問題研究所研究員等を経て現職。


週刊エコノミスト2024年2月20・27日合併号掲載

『高齢化の経済学 地方分権はシルバー民主主義を超えられるか』 評者・井堀利宏

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