スピリッツで循環経済に貢献を――小野力さん
エシカル・スピリッツ代表取締役CEO 小野力
酒粕、コーヒーの粉、カカオの皮……。捨てられるはずだった素材からうまれた香り。今宵、新しいスピリッツの世界へお連れします。(聞き手=永野原梨香・ライター)
日本酒の製造過程で廃棄されることの多い酒粕から作ったジン「LAST」シリーズが、主力商品です。2020年の創業時から販売し、これまでに活用した酒粕は約21トンになりました。英国の国際的な酒類品評会「International Wine & Spirit Competition」では最高賞を受賞しています。
コロナ禍での創業だったので、いかに家で飲んでもらうかがポイントでした。トニックがないから家で飲めないということがないよう、ソーダ割りでおいしく飲めるように設計しています。酒粕からできたアルコールにラベンダーなどで香り付けをして蒸留したジン「LAST ELEGANT」(200ミリリットル、税込み1650円)はソーダ割りがお勧めです。
1月に発売した「LAST ELYSIUM」(200ミリリットル、税込み1650円)は、酒粕からできたアルコールにカモミールやショウガの葉などから香りを付けています。バーテンダーの方や自分でお酒を作る方にも使ってもらいやすく、飲みやすさにこだわった商品です。
ジンを作るための唯一の条件はジュニパーベリー(ヒノキ科の針葉樹の実)から香りをとること。ジュニパーベリーとプラス一つの素材から香りをとるか、プラス100の素材から香りをとるか、メーカーの自由。多種多様な表現ができるのが面白い。
創業当初は各地の酒造メーカーに蒸留を委託していましたが、現在は本社のある東京・蔵前に蒸留所を構え、蒸留しています。建設には一部、助成金も活用しました。蒸留所の上の階には弊社の商品を楽しめるバーがあり、海外からの旅行者の方もいらっしゃることがあります。
「LAST」シリーズのほか、さまざまな廃棄されるはずだったもの、未活用なものからジンを作ってきました。チョコレートの製造過程で捨てられることの多いカカオの皮の部分から作ったジン、JAL国内線の羽田空港ラウンジでコーヒーを抽出したあとに残るコーヒー粉から作ったジンなどもあります。
イギリス、イタリア、フランスに輸出しています。ジンは海外でも生産が盛んですが、未活用な素材や廃棄される素材をモノづくりの根幹に置いている企業は珍しいと認識しています。
木で作ったお酒、商品化へ
現在は国立森林総合研究所(茨城県つくば市)が開発した木から「酒」を作る世界初の技術をもとに、商品の開発が進んでいます。例えば、芋や米も発酵後、蒸留し焼酎になります。それと同じように木を発酵させて蒸留させるのです。
育った地域によって杉も違う風味を持っているでしょう。間伐材の活用にもなります。今年の終わりぐらいに試験販売し、来年以降、本格販売ができたらと考えています。
1月1日に山本祐也(現取締役会長)から代表を引き継ぎました。お酒の消費は一見、「環境に良い」「世界のために良い」ことからかけ離れているように思いますが、「お酒の消費行動が循環経済に貢献しているよね」という社会を作りたいです。
企業概要
事業内容:未活用素材を使用したクラフトジンなどの生産、再生型蒸留所の運営
本社所在地:東京都台東区
設立:2020年2月
資本金:1億円
従業員数:22人
週刊エコノミスト2024年3月5日号掲載
小野力 エシカル・スピリッツ代表取締役CEO スピリッツで循環経済に貢献を