急増する児童虐待の対策にもDXを――高岡昂太さん
AiCAN代表取締役CEO 高岡昂太
子どもの虐待に対応する児童相談所の体制は驚くほど貧弱だ。デジタル技術の活用で防止に貢献する。(聞き手=和田肇・編集部)
子どもの虐待対応に関する専用の業務アプリ「AiCAN」を提供しています。ユーザーは児童相談所の職員や自治体の関連部署の職員です。「SaaS」(インターネットを経由して必要な機能を利用するシステム)型のプラットフォームで、全体としては、タブレット端末から利用できるアプリ、クラウド型データベース、データ分析用人工知能(AI)で構成されています。
子どもの虐待防止の取り組みは、機微な個人情報を扱うので、当社のアプリは外部からアクセスできないインターネット回線を使用しており、アプリを使う職員しか利用できません。アプリでは、対象児童の基本情報、調査項目、経過記録欄などがあらかじめ設定されているので、初任者でも業務をこなしやすい仕組みになっています。
入力したデータは、クラウドを通じて他の職員との共有が可能で、AI機能によって蓄積されたデータから、虐待の見逃し防止、起こり得るさまざまな危険性の示唆なども得ることができます。これらを通じて職員の判断をサポートします。これまで三重県で採用されたほか、複数の自治体でトライアルが行われています。
「すべて児童相談所がやれ」
私たちの世代は「キレる世代」ともいわれます。私は大学時代に心理学を専攻し、その後、臨床心理士として、病院や児童相談所などで勤務する中で、子どもの虐待防止に取り組む現場がどのような状況になっているかを知りました。私の調査では、ここ20年で子ども虐待件数は約6倍増加しましたが、児童相談所の職員の増員は約3倍にとどまり、職員1人当たりの業務量は約5倍に増えています。子どもの虐待に関する自治体や児童相談所の現場は、もうパンク状態です。このため、職員の半数は若手ですが、新人研修もままならない状況です。そもそも、子どもの虐待防止に関しては、具体的な業務のマニュアルやガイドラインなどなく(一部自治体はガイドライン策定)、児童の保護は職員個人の経験など属人的な力量に依存してきました。紙の書類処理の仕事も多い。こうした状況を何とかしないとと考えたのが、このアプリの開発、この会社を設立したきっかけです。
子どもを虐待から守るためには、例えば、子ども本人や保護者からだけ話を聞いてもダメで、学校関係者や病院など周囲の幅広い関係者から情報を収集する必要があります。母親から虐待を受けていたとしても、母親が「子どもが転んでできた傷だ」と書類に書いてしまえば、本当のことは分からない。今まではそうしたケースが多かった。
日本の児童相談所が扱う仕事が多すぎます。虐待以外でも非行や発達障害、子育て、いじめなど多くを扱っています。これらは学校、病院などでも取り組めるのではないかと思うのですが、日本では「すべて児童相談所がやれ」となっています。児童相談所はカバーする仕事の量が多すぎるのです。
今後は、こうした児童相談所の問題とその是正を訴えつつ、私たちのアプリを利用していただく自治体を少しでも増やしていきたいと思います。また、海外でもぜひ使ってほしいアプリです。
企業概要
事業内容:児童相談業務支援事業、調査研究事業
本社所在地:川崎市
設立:2020年3月
資本金:615万円
従業員数:11人
週刊エコノミスト2024年2月6日号掲載
高岡昂太 AiCAN代表取締役CEO 急増する児童虐待、対策にDX