「ねかいごと」かなえるセンサー――宇井吉美さん
aba代表取締役CEO 宇井吉美
介護現場の大きな課題は排泄(はいせつ)。解決のため、においで排泄が分かるセンサーを開発した。テクノロジーで「誰もが介護したくなる社会」を目指す。(聞き手=位川一郎・編集部)
シート型のセンサー「Helppad(ヘルプパッド)」を販売しています。ベッド上に敷いて寝るだけで、排泄があるとにおいを検知し、介護者のパソコンやスマホに通知する仕組みです。介護施設のおむつ交換は時間を決めて行っていますが、Helppadなら排泄があったらおむつ交換に行き、なければ行かなくていい。介護者の負担を減らし、ご本人の睡眠阻害を軽減できる。尿漏れ、便漏れも減らせます。
シート型なのが特徴です。従来はおむつや体に貼り付けるタイプが多かったんですが、うちは介護現場の方々から「ご本人の生活を乱すので体に機械を付けないで」と言われ、シート型にこだわりました。貼り付け型はおむつ交換時になくすこともあります。においセンサーは市販品ですが、排泄を検知する専用のAI(人工知能)で尿と便の識別ができます。要介護者の排泄データを何年も集めアルゴリズムを開発しました。会社のコア技術です。排泄の検知率は80%ぐらいで、運用に十分耐えうると思います。
2023年10月に第1世代のHelppadを改良した「Helppad2」を発売しました。第1世代はシート全体で空気を吸い込み、ベッド端のにおいセンサーに送る仕組みでしたが、尿や便が漏れた時に吸い込んでしまい、メンテナンスが大変になるという課題がありました。「2」ではセンサーの小型化と放熱量の減少で体の直下に設置でき、空気を吸わなくてもにおいを直接検知できるようになりました。「2」の注文は500台以上来ていて生産が追いつかない状況です。
実習での体験が契機に
介護職さんの力になりたいと思った大きな契機は、大学の介護実習でした。特別養護老人ホームでの初日、高齢の入居者さんを便座に座らせ、介護職さん2人が押さえつけながらお腹を押してたんです。ご本人は「うわー」と叫んでいました。私は衝撃を受けて「ご本人が望んでるケアなんですか」と泣きながら聞きました。そしたら介護職さんは「この方が家に帰った後は家族がケアする。便失禁の処理は生やさしいものじゃない。私たちは家族のケアも考えなきゃいけないからやってるけど、そう聞かれると、分からない」と。なんて難しい課題を担ってるんだろうと、一瞬でリスペクトしました。その後、どんな介護ロボットなら役に立つか聞くと、「おむつを開けずに中が見たい」と言われたんです。じゃあそれをやろう、と決めました。
そこから15年で、やっと納得いくものになってきました。これまでは「つくる」フェーズでしたが、次は「届ける」フェーズだと思っています。11月11日の「介護の日」に「ねかいごと」イベントをやりました。介護の願いをかなえた製品やサービスを「ねかいごと」と名付けて、Helppad2だけでなく他の5社の製品も展示しました。国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2020」によると、世界の介護者は約9億人。他社の素晴らしい製品ももっと世の中に知ってほしい。毎年同じ日にイベントを開いて、「ねかいごとブランド」に育てたいですね。
企業概要
事業内容:医療・介護・福祉分野を対象としたロボティクス技術の研究開発及びサービス提供
本社所在地:千葉県八千代市
設立:2011年10月
資本金:5842万7240円
従業員数:10人
週刊エコノミスト2023年12月26日・2024年1月2日合併号掲載
宇井吉美 aba代表取締役CEO 「ねかいごと」かなえるセンサー