経済・企業挑戦者2024

「ねかいごと」かなえるセンサー――宇井吉美さん

うい・よしみ  1988年千葉県生まれ。中学時代に祖母がうつ病になったことがきっかけで介護ロボット開発の道に進む。千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科在学中にaba(アバ)を設立。2019年、排泄センサー「Helppad」を製品化。23年、スタートアップ京都国際賞とオーディエンス審査員賞をダブル受賞。(撮影 武市公孝)
うい・よしみ  1988年千葉県生まれ。中学時代に祖母がうつ病になったことがきっかけで介護ロボット開発の道に進む。千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科在学中にaba(アバ)を設立。2019年、排泄センサー「Helppad」を製品化。23年、スタートアップ京都国際賞とオーディエンス審査員賞をダブル受賞。(撮影 武市公孝)

aba代表取締役CEO 宇井吉美

 介護現場の大きな課題は排泄(はいせつ)。解決のため、においで排泄が分かるセンサーを開発した。テクノロジーで「誰もが介護したくなる社会」を目指す。(聞き手=位川一郎・編集部)

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 シート型のセンサー「Helppad(ヘルプパッド)」を販売しています。ベッド上に敷いて寝るだけで、排泄があるとにおいを検知し、介護者のパソコンやスマホに通知する仕組みです。介護施設のおむつ交換は時間を決めて行っていますが、Helppadなら排泄があったらおむつ交換に行き、なければ行かなくていい。介護者の負担を減らし、ご本人の睡眠阻害を軽減できる。尿漏れ、便漏れも減らせます。

 シート型なのが特徴です。従来はおむつや体に貼り付けるタイプが多かったんですが、うちは介護現場の方々から「ご本人の生活を乱すので体に機械を付けないで」と言われ、シート型にこだわりました。貼り付け型はおむつ交換時になくすこともあります。においセンサーは市販品ですが、排泄を検知する専用のAI(人工知能)で尿と便の識別ができます。要介護者の排泄データを何年も集めアルゴリズムを開発しました。会社のコア技術です。排泄の検知率は80%ぐらいで、運用に十分耐えうると思います。

Helppad2(左)と第1世代のHelppad
Helppad2(左)と第1世代のHelppad

 2023年10月に第1世代のHelppadを改良した「Helppad2」を発売しました。第1世代はシート全体で空気を吸い込み、ベッド端のにおいセンサーに送る仕組みでしたが、尿や便が漏れた時に吸い込んでしまい、メンテナンスが大変になるという課題がありました。「2」ではセンサーの小型化と放熱量の減少で体の直下に設置でき、空気を吸わなくてもにおいを直接検知できるようになりました。「2」の注文は500台以上来ていて生産が追いつかない状況です。

実習での体験が契機に

 介護職さんの力になりたいと思った大きな契機は、大学の介護実習でした。特別養護老人ホームでの初日、高齢の入居者さんを便座に座らせ、介護職さん2人が押さえつけながらお腹を押してたんです。ご本人は「うわー」と叫んでいました。私は衝撃を受けて「ご本人が望んでるケアなんですか」と泣きながら聞きました。そしたら介護職さんは「この方が家に帰った後は家族がケアする。便失禁の処理は生やさしいものじゃない。私たちは家族のケアも考えなきゃいけないからやってるけど、そう聞かれると、分からない」と。なんて難しい課題を担ってるんだろうと、一瞬でリスペクトしました。その後、どんな介護ロボットなら役に立つか聞くと、「おむつを開けずに中が見たい」と言われたんです。じゃあそれをやろう、と決めました。

 そこから15年で、やっと納得いくものになってきました。これまでは「つくる」フェーズでしたが、次は「届ける」フェーズだと思っています。11月11日の「介護の日」に「ねかいごと」イベントをやりました。介護の願いをかなえた製品やサービスを「ねかいごと」と名付けて、Helppad2だけでなく他の5社の製品も展示しました。国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2020」によると、世界の介護者は約9億人。他社の素晴らしい製品ももっと世の中に知ってほしい。毎年同じ日にイベントを開いて、「ねかいごとブランド」に育てたいですね。


企業概要

事業内容:医療・介護・福祉分野を対象としたロボティクス技術の研究開発及びサービス提供

本社所在地:千葉県八千代市

設立:2011年10月

資本金:5842万7240円

従業員数:10人


週刊エコノミスト2023年12月26日・2024年1月2日合併号掲載

宇井吉美 aba代表取締役CEO 「ねかいごと」かなえるセンサー

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