家の中で家具を動かすロボット――礒部達さん
Preferred Robotics代表取締役CEO 礒部達
家の「片付け」分野に着目したロボットを開発。家具の方を動かすという発想の転換で未来をひらく。(聞き手=和田肇・編集部)
事業はおおよそ三つに分かれます。一つは、スーパーやショッピングモール、工場、オフィスビルなどで使う、自律移動型の業務用清掃ロボットの開発。二つ目は、清掃ロボット以外の自律移動型ロボットの開発・販売。例えば、小売業向けの自律移動型ロボットなどを受託に近い形で開発しています。三つ目は、今年5月に販売開始した、家庭向けの自律移動型ロボット「カチャカ」です。販売も当社が担当しています。ロボットの生産自体は外部の工場に委託しています。
「カチャカ」は、例えば、人の声で「ペットボトルの水を持ってきて」と指示すると、ペットボトルが置いてある「カチャカ」専用の家具(小さな車輪が付いていて移動可能)のところまで走行して、家具の下部に自動でドッキング。室内をスムーズに移動しながら、家具を指定された場所に運びます。その家具を使わない時は、部屋の隅に置いておきます。必要な時は「カチャカ」が運びますから。部屋を整理しておくのに便利ですし、スペースを効率的に使えます。家具が動いてくれるので、ひとつの部屋を仕事部屋にしたり、リビングにしたりすることもできます。指示は専用アプリでもできます。価格は専用家具なしのカチャカ本体のみの場合は、月額4980円の48回分割払い、または22万8000円の一括払いです(税込み)。
家の中の移動技術は非常に難しい
「カチャカ」は2019年秋ごろから開発に着手しました。産業用ロボットにみられるように、日本のロボット技術は元々非常に高い水準にある。しかし、家庭用掃除ロボットなどは、ほとんどが中国など外国製です。そうした一般向け市場で考えていたのが、家の中の「片付ける」という領域です。
しかし、業務用と異なり、家の中はいろいろものが散在し、技術的には非常に難しいんですね。これまで居住空間での自律移動ロボットの導入は困難とされてきました。高い精度・技術が要求される一方で、一般向けは価格を抑える必要もあります。「カチャカ」は、レーザーや赤外線のセンサーも使っていますが、画像認識技術で障害物をかわす点がポイントです。画像処理、障害物回避計算、音声認識など、五つぐらいのモデルを、AI(人工知能)によるディープラーニング(深層学習)と組み合わせています。私の知る限りでは、家の中でぶつからずに動いていける自律移動ロボットは、「カチャカ」以外にまだ出ていないと思っています。
販売は好調で、購入層はやはり技術好きの方が多いですが、最近は女性の購入も増えています。今後は専用家具を増やしていくほか、ロボットが状況を理解して、自分で届けていく機能の開発などにも取り組みたいですね。また、炊飯器をロボットで動かせるようになると、非常に便利です。家だけでなく、オフィスや病院内でも用途はたくさんあると思います。
企業概要
事業内容:自律移動型ロボットの開発
本社所在地:東京都千代田区
設立:2021年11月
資本金:1億円
従業員数:37人
週刊エコノミスト2023年12月5・12日合併号掲載
礒部達 Preferred Robotics代表取締役CEO 人ではなく家具が動く