教養・歴史書評

金融史の革命にして創造的破壊者であるインデックス・ファンドの誕生と成長を活写 評者・井堀利宏

『TRILLIONS [物語]インデックス・ファンド革命』

著者 ロビン・ウィグルスワース(『フィナンシャル・タイムズ』紙記者) 訳者 貫井佳子

日経BP 3080円

 インデックス・ファンドとは、株式市場全体の動きを表す代表的なインデックス(指数)に連動して運用を行う投資信託である。目安となるインデックスは、日経平均、NYダウなどの株価指数である。日経平均が4万円を超えた昨今、NISAを使って株式で資金運用する人も増加しているが、その有力な選択肢の一つがインデックス・ファンドである。

 市場の先行きを予想して運用者の才覚で投資対象を選択してもうけようとするヘッジファンドは高い手数料を取る。しかし、低い手数料で市場全体の指数と連動し受動的に投資・運用するインデックス・ファンドよりも、中長期的にみると、そのパフォーマンスが優れているとはいえない。世界最高の投資家でさえ中長期的には市場に勝てないという効率的市場仮説が金融業界でも注目されるようになり、現在では多くの投資資金がインデックス・ファンドで運用されている。

 ただし、インデックス・ファンドの開発は容易ではなかった。株価指数の計算には膨大なコストと時間がかかったので、コンピューター能力の向上が不可欠であった。また、こうした受動的な運用を金融業界が受け入れるのも抵抗が大きかった。金融市場の規制改革や法制度の対応など、克服すべき課題も山積していた。ノーベル経済学賞受賞者を含む卓越した金融経済学者と数学・統計学に素養があり開拓精神の旺盛な金融異端者・実務家の激しい共同作業で、ようやくインデックス・ファンドは誕生、成長していった。

 本書は、金融市場における最大の革命ともいえるインデックス・ファンドの商品開発とその発展の歴史を、30人以上の当事者の生きざまをめぐる葛藤ドラマの観点から赤裸々に描写しており、金融史における創造的破壊者の物語としても読み応え十分である。

 今日アメリカの代表的な株価指数であるS&P500のインデックス・ファンドは、3大投資会社の寡占状態にある。インデックス・ファンドは受動的に分散投資するが、ファンドが巨大化すると、そうした行為自体が株価の形成に影響してしまう。金融資本市場の機能がインデックス・ファンドでゆがめられる危険性、ガバナンス(企業統治)への悪影響にも留意すべきと主張する。

 今後もインデックス・ファンドは一般投資家が資産形成をする上で有効な手段として活用されるだろう。本書の読者は、この斬新な金融商品開発の内実を垣間見ることで、金融市場のダイナミズムを実感できる。

(井堀利宏・政策研究大学院大学名誉教授)


 Robin Wigglesworth ブルームバーグニュース社勤務を経て、2008年に『フィナンシャル・タイムズ』紙に移籍、現在はグローバル・ファイナンス担当記者。マーケットや投資動向、世界のファイナンス状況などを取材している。


週刊エコノミスト2024年4月30日・5月7日合併号掲載

『TRILLIONS [物語]インデックス・ファンド革命』 評者・井堀利宏

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