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東京決戦が日本を決める 挑戦者・蓮舫「私はこう戦う」 田原総一朗が斬り込む 【倉重篤郎のニュース最前線】

都知事選立候補を表明し、取材対応を終える小池百合子都知事
都知事選立候補を表明し、取材対応を終える小池百合子都知事

 裏金事件とそれへの不誠実な対応などから、国民は岸田政権に愛想をつかしている。衆院補選、各地方選などで自民が続々と敗北を喫しているのが如実な表れだ。来たる都知事選は国政から見ても大一番となろう。小池都政に挑む蓮舫氏を田原総一朗が直撃、東京から時代を変える清新な構想を聞き出した。

少子化対策で小池さんの先を行く/外苑再開発、決定過程の情報公開を/学歴疑惑はご本人が説明を/歴史認識のなさに驚き

 久々に面白い首都決戦になりそうだ。20日告示、7月7日投開票の都知事選だ。

 第一に、国政との関わりだ。立憲民主党参院議員の蓮舫氏が3期目を狙う小池百合子氏に挑戦する。蓮舫氏は無所属で出馬するが、その応援部隊は立憲、共産、社民、市民連合といったリベラル勢力である。一方小池氏も無所属ながら自民、公明が自主的、組織的なサポート態勢を組んでいる。自民党の裏金疑惑をめぐり、その真相解明のあり方、再発防止策でぶつかり合う中央での対決構図がそのまま持ち込まれた形になる。

 4月28日の衆院3補選での完敗後、自民党は地方首長選でも黒星が続いている。5月19日の小田原市長選では、自民推薦の現職が元職に大差で敗れ、26日の静岡知事選でも、自民推薦の元副知事が、立憲、国民民主が推す元浜松市長に負けた。同日行われた都議目黒区補選では2議席に自民候補が一つも食い込めず、立憲、無所属候補に奪われた。さらに目を凝らすと、岸田文雄首相のお膝元の広島県府中町長選で自公候補が無所属候補に大差で負け(5月26日)、茂木敏充幹事長の地元の栃木県鹿沼市長選では自公推薦の元県議会議長が、立憲の元県議に敗れた(6月9日)。

 すでに地方から、岸田氏の顔で選挙は戦えないとの不満が公然化し始めたが、1400万都民の選択となる都知事選結果は、一つの節目として、数多(あまた)の支流を一気に取り込み、大河として政局の本流を決することもありうる。リベラル勢力がこの流れを摑(つか)めば、その勢いは国政にも跳ね返り、自公勢力が小池3選を守り切れば、ここを徳俵に局面転換を図るきっかけになる。そのインパクトは大きい。岸田氏進退、衆院解散時期にも関わってくるだろう。

 第二に、都政そのものへの関心だ。超少子化、環境と都市再開発の調和、首都防災、一極集中といった東京ならではの課題にどう向き合うか。「出生率0・99」の現状をどう克服するのか。神宮外苑再開発による樹木伐採計画をどう見直すか。関東大震災級の地震への備えをどうするか。国際都市・東京のトップは世界に向けた日本の顔でもある。多様性の体現力、歴史認識も重要だ。関東大震災時の朝鮮人虐殺の追悼式典に、小池知事になってから追悼文を送らなくなったことの是非も争点となろう。

 第三に、小池、蓮舫両氏のキャラクター対決の妙味である。思想的には真逆だが、二人ともキャスター出身、政治勘が鋭く、発信力が高い。小池氏は8年前、自民党を敵に回すことで知事ポストを射止め、その後は自公と組み、中央政界復帰カードを巧みに切りながら、都政での小池1強体制を構築した。その安定感は3選盤石と思わせたが、自民の裏金逆風と小池氏本人のカイロ大学「学歴詐称」疑惑再燃が重なり、その間隙を縫って勝負に出たのが蓮舫氏だった。「反自民、非小池」票の受け皿を自ら買って出たことで、世の関心を一気に引き寄せた。ここは挑戦者に敬意を表し、ジャーナリストの田原総一朗氏が蓮舫氏の胸中を質(ただ)す。

首都決戦に挑む蓮舫氏
首都決戦に挑む蓮舫氏

自民党への怒りがこみ上げてきた

田原 なぜ都知事選?

蓮舫 私の故郷だからです。東京に生まれ育ち、双子を育て上げてきました。20年間都選出参院議員として仕事をしてきて、東京には強い関心を抱いてきました。

田原 国政の人かと。

蓮舫 国政でこのままやるのか、生まれ育った東京を世界に開く仕事をするのか、という判断でした。国会議員としては、国会での行政監視役という野党の役割を果たすため、「批判ばかり」と言われようと、時の政権が否定できないファクトを突き付け改善に導く仕事をしてきました。ただ、自らの政策を実現するハードルが高い、という野党国会議員の限界も感じてきました。そんな時、少子化対策といった国政にも関わる重要な問題でも、都知事というポストなら都議会と協力して条例を成立させるなど、都が国に先立って課題解決の流れを作れることに気付きました。貧困に苦しむ若い世代の環境改善もそうですし、人生の先輩たちの安全安心もそうです。都知事のリーダーシップで、そういった世界をつくり上げることができます。この魅力が凄(すご)く大きいです。

田原 いつからその気に?

蓮舫 これまでも都知事選というと、漠として私の名前が挙げられ、出てみないかと声をかけられたこともありましたが、私の中では国政の優先順位が高かったです。ライフワークとして取り組んできた行政改革の役割がまだあると思っていました。ですが、裏金事件が発覚、国民の批判が高まるにつれ、気持ちの変化が出てきました。何よりも自民党に対する怒りがこみ上げました。私はパーティーも開きませんし、企業団体献金も頂いていません。自民党にも真面目な人がいます。一部の悪い政治家のせいで、政治への信頼がどんどん溶けていってます。衆院選や来年の参院選でも問うチャンスがありますが、そこまで待てないくらいの怒りを覚えました。

田原 待てなかった?

蓮舫 その時に都知事選が目の前にあって、ここで勝負を懸ける、その結果が東京も変えられるし、国政への大きな声にもなると思いました。4月28日の衆院3補選の結果も大きかったです。島根1区の亀井亜紀子さんの応援に行きましたが、今まで投票用紙に自民党候補者以外は書いたことがなかった人たちの熱を凄く感じました。静岡知事選、その他の選挙結果を見て、時代を変えるかもしれない、という民意を久しぶりに肌で実感しています。2009年以来のことです。

田原 出馬表明の反響は?

蓮舫 想像以上でした。テレビ、週刊誌で大きく扱ってもらい、反響がここまで広がると思っていませんでした。私を支援してくださる人が結構多いのも嬉(うれ)しい驚きでした。(従来は自民支持であった)経済界の方もいらっしゃいます。

田原 小池氏どこが問題?

蓮舫 8年前の選挙では、自民党を「ブラックボックス」「伏魔殿」と批判して格好良かったですが、その後は自民党に先祖返りしています。今の自民党に支援される人が都政のトップに座るべきではありません。

田原 自民党どこが問題?

蓮舫 物価高や生活苦など解決すべき政治課題が数多くある中、結局自分たちだけ懐を潤わせていたことが裏金疑惑で明らかになったのに、反省がありません。500万円未満の裏金議員は不問に付すとか、2700万円の裏金をもらっていた萩生田光一さんを都連会長ポストに居座らせています。再発防止のための政治資金規正法改正案も、政策活動費の公開は10年後、しかも黒塗りの可能性もある、とか、企業・団体献金禁止については触れもしていません。納税者の立場に立ちえない人たちが、政治の中枢にいます。しかも首都東京の知事を選ぼうとしています。こういった政党に支援された人が東京都の顔ではいけない。その姿勢だけでも私は手を挙げる意味があると思っています。今の自民党政治は一度終わらせなければなりません。

どうすれば女性の可能性が広がるか

田原 小池氏の政策には?

蓮舫 評価できる点もありますし、私ならこうするというところもあります。一つの指標は、選挙時の公約達成度です。例えば、8年前の「七つのゼロ」公約(待機児童、介護離職、残業、都道の電柱、満員電車、多摩格差、ペット殺処分のゼロ化)がどこまで進捗(しんちょく)しているか、出馬会見の際、メディアにも調べてもらおうとあえて口にしました。

田原 少子化対策は? 高校授業料無償化どう評価?

蓮舫 40年前から少子化、人口減少と言われ、このままでは「消滅可能性都市」が出てくると提言されていましたが、自民党政治は何もしてきませんでした。1971〜74年の第2次ベビーブームに年間200万人生まれた人たちが、自ら産むと判断し、生物学的に可能な時期への対策が決定的に重要でした。その時に私たち(民主党)が政権を獲(と)り、子ども手当の支給で子育て支援する、と言ったのを「バラマキ」だと足を引っ張ったのが当時の野党自民党です。その自民党をバックボーンに持つ小池さんがこの2年でようやく気が付いてくれたのは素晴らしいと思いますが、遅きに失したとも思っています。これから産むかもしれない、これから結婚をしたいと思っている人たちの環境を変えていかない限り、人口減少・少子化のトレンドを反転させるのは無理です。

田原 全く評価しない?

蓮舫 実際手を付けられたことは評価します。でも、さらにその先に行けるところがあると思っています。

田原 手法も違う?

蓮舫 トップの決断のあり方が私と小池さんとでは違います。現場を熟知するNGOや専門家らの協力を求め、生の声を吸い上げていく形で政策形成をすべきだと思います。小池流トップダウンでは、その判断が間違った時は無駄に終わってしまいます。ボトムアップ的な積み上げ方式での行政にしたいと思っています。

田原 問題は家事・育児がいまだに女性の仕事になっていることだ。建前だけ男女同権をうたう現憲法に問題がある、との指摘もある。

蓮舫 今の憲法は女性の可能性を広げ、女性がやる気になれば何でもできる社会を導き出してくれました。NHK朝ドラの「虎に翼」ではありませんが、どれだけ先人がご苦労されたかを見るにつけ、誇るべき憲法だと思っています。この憲法に他の法理体系がついてこなかったのではないでしょうか。子育て、介護は家でやるものだという旧世代が、足を引っ張ってきたと思います。それを作ってきたのが自民党の政治です。

田原 外苑再開発問題は?

蓮舫 日本初の風致地区がなぜ民間に売却され、高層ビル建設と樹木伐採・移植に至ったのか、その再開発決定の経緯についての情報がまだ十分に公開されていません。その時々の未来予想図を知事がどう判断したのか、政策判断の背景があると思います。現時点でそれがおかしいと評価する立場ではありませんが、何があったかは知りたいと思っています。

田原 今、計画は棚上げ?

蓮舫 小池知事が事業者に樹木保全の具体策を示すよう要請したのに対し、事業者側の回答はいまだに出ていません。知事から再要請すべきなのに、それもしていません。そこは争点の一つになると思います。

財源を生み出し、必要な政策に向ける

田原 朝鮮人虐殺追悼式典に知事の追悼文を出さなくなった問題は?

蓮舫 歴史修正主義が疑われるようなことを東京都のトップが行ったことに対する驚きがあります。石原慎太郎、猪瀬直樹、舛添要一と歴代知事も送っておられたのが、小池知事になっていきなりストップされた。

田原 あなたはどうする?

蓮舫 震災では命が救われたのに、その後の人災で命を奪われた人たちが実際にいて、政府の公文書でも確認されているものに対しては、私は真摯(しんし)に向き合うべきだと思います。

田原 大地震対策は?

蓮舫 治水や避難所整備など防災計画は、石原知事時代からハード、ソフト両面で相当進んでいると思いますが、防災は命を守るという政治の最も重要な仕事です。都民1400万人の命に加えて、昼間人口は100万人単位で膨れますし、日本語のわからないインバウンドの旅行客もいます。発生時間、形態もさまざまで、あらゆる角度からシミュレーションを総点検しないといけません。紙の防災ブックを配るだけではない、デジタル時代に合わせた改革も提案していきたいです。

田原 ジェンダー平等は?

蓮舫 都単独でやれることが多くあります。公契約の相手企業の女性登用度をチェックしたり、都職員人事で率先垂範するなどです。

田原 小池氏側近が告発した「学歴詐称」問題は?

蓮舫 小池さんが自分の言葉で語られるべきことで、それを都民が納得するかどうかだと思います。そこに尽きます。私がどうこう言う立場にはありません。

田原 あなたが(台湾との)二重国籍だった問題は?

蓮舫 私は日本人です。日本国籍を選択したので、全く問題ありません。違法状態はもう解消されています。

田原 蓮舫でなければできない、ことは?

蓮舫 本気で財源を生み出すことです。これは単なるコストカットが目的だからではありません。都民の皆様からお預かりする税金を、本当に必要な政策に向けるためです。訴えたい・実現したい政策はたくさんあり、ワクワクしていただける政策を用意しています。少しだけ、公約発表までお待ちいただけないでしょうか。

   ◇   ◇

 時あたかも日本のジェンダーギャップ指数が146カ国中118位だと、世界経済フォーラムが発表したばかりである。女性政治家の割合の低さが順位を押し下げている。お二人には、今回の選挙がそのトレンドを吹き飛ばし、女性政治家の裾野拡大の転換点になるような論戦を望みたい。


れんほう

 1967年、東京都生まれ。政治家。芸能活動、報道キャスターなどを経て参院議員。首相補佐官、内閣府特命担当大臣、立憲民主党代表代行などを歴任。5月27日、都知事選立候補を表明した

くらしげ・あつろう

 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部を経て、2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

「サンデー毎日」6月30日号表紙
「サンデー毎日」6月30日号表紙

6月18日発売の「サンデー毎日 6月30日号」には、ほかにも「田原総一朗が直撃! 蓮舫『都知事選、私はこう戦う』「バレーボール男子日本代表 グラビア&ルポ9P大特集」「『親の介護のリアル』50代記者×コラムニストが本音対談」」などの記事も掲載しています。

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