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体の冷却と生活習慣で「暑害」を乗り切れ! 2024年版熱中症にならない酷暑対策

熱中症にならないように注意したい
熱中症にならないように注意したい

 今年も暑い夏がやってくる。猛暑による脱水症状は、脳梗塞などのリスクを高め、急性腎不全など命に関わる病気を引き起こすこともあるから要注意だ。最新の冷却グッズと生活上の注意点を専門家に聞いた。

送風では足りない 〝冷たい〟が必要

 また猛暑・酷暑の日々がやってくる。この夏をどうしのぐか、げんなりしながら対策を考えている人は多いだろう。

 もしも新しいグッズの購入を検討しているなら、今シーズンのキーワードは「ペルチェ」だ。小売店の暑さ対策コーナーには、日傘や水筒、ハンディー扇風機などが売られているが、そこに「ペルチェ式」「ペルチェ素子」などと書かれたアイテムがある。それらに共通しているのは、金属のプレートを直接肌に当てる仕様になっていること。そのプレートの裏側で働くのが「ペルチェ素子」という半導体モジュールで、電気を通すことによって冷たさが持続する仕組みになっている。

「近年の猛烈な暑さのなかでは、外出先でモバイル型扇風機を使っても、体に当たる風が熱風になってしまいます。そのため冷たいものを体に直接付けたいニーズがあり、〝ペルチェ〟が好調。扇風機も付いて1台で二つの機能があるアイテムが売れています」

 そう話すのはハンディー扇風機などを企画・製造するエレスの広報担当五十嵐大輔さん。同社は3年前からペルチェ素子を使ったアイテムを販売、昨年はよく売れた。扇風機の中央部分に冷却プレートが付いているタイプなら、持ち歩きながら、体を冷やしやすい手のひらや首元に当てられる。近年の酷暑下では、「風」+「ひんやり」のダブル対策が定番化しているようだ。

ビジネスシーンにもウエアラブル冷却

 もともとペルチェ素子はパソコン用クーラーやミニ冷蔵庫に使われていた。それを、人間の暑さ対策に活用して、まったく新しい冷却アイテムを生み出したのは、ソニーサーモテクノロジーの伊藤健二さんだ。

 都市部で働く人の通勤に焦点をあてたウエアラブルなサーモデバイス「レオンポケット(REON POCKET)」は、2020年に初めて世に登場して以来売れ行き好調が続く。5年目の今年は、第5世代の製品を発売。冷却力が強力になり、さらに最大のレベル5で4時間、レベル4なら7・5時間と長時間駆動するのが大きな特徴だ。

 レオンポケットの開発以前、伊藤さんはソニーでカメラの商品設計に従事していた。向上し続ける画像処理性能を追いかけ、いかに熱を逃してパフォーマンスを発揮させるかを追求、そのなかでペルチェ素子の存在を知った。新しい発想のきっかけは17年、出張で訪れた上海の街の暑さだった。

「いまでこそ日本で猛暑はめずらしくありませんが、あの時、上海の気温38度は、初めての体験でした。ホテルに帰れば冷えすぎで体調を崩す懸念を抱き、エアコンの室外機の熱が、街の気温をさらに上げてしまうのではとも考えた。私はマイナスの気温なら服を着こめば我慢できますが、体温の36、37度よりも1、2度高い気温には耐えられないという事実に、危機感を持ちました」(伊藤さん)

小型、自動、静か 海外でも大人気

 最新のレオンポケット5は、本体の冷却プレートが背中の左右中央、襟下の首元に当たるようにワイヤーをかけて装着する。操作はスマホの専用アプリから。スイッチをオンして、冷却のレベルを5段階から選ぶ。レオンポケットが体温を感知して、適正温度を目指して自動で冷却してくれる。メーカーは熱中症対策のための機器ではないとしているが、暑さ対策には便利だ。

 なぜ首元を冷やすのか。

「大学とも検証を進めてきましたが、首元は冷感・温感を感じやすい部位の一つです。また装着のしやすさと、サーモモジュール(ペルチェ素子)から出る熱を排出し冷却を維持する構造にも適していたことから首元を選定しました」(同)

 手のひらサイズで、薄い本体には、肌に触れる金属プレート、その裏にペルチェ素子、その下に放熱のためのファンが入っている。ペルチェ素子は片面が冷却すると、反対側は発熱するのが特徴で、冷却が始まると熱を排気するためにファンが動く。これがかなり静か。外部のメーカーにオーダーした伊藤さんも「ファンがここまで進化するとは」。最も小さい作動ではサーッと波のような優しい音で、ビジネスシーンに持ち込みやすい。

 全体として小型で軽量、落ち着いた手触りなどはさすがソニーといったつくりだ。

「ネジを外に見せないのはデザインのフィロソフィー。レオンポケットも正面からは吸気孔を見えにくいようにするなどスタイリッシュであることにこだわりました」(同)

 数日間装着してみると、一日を通じてなんとなく体がラクな感じ。そして「パーソナルなクーラー」を使っていることにメリットを感じた。暑さを感じた時にエアコンで部屋全体の温度を下げなくても、レオンポケットの設定を変えて涼むことができる。装着して歩いても安定感がある。

 国外では香港に加え、今年からシンガポールやマレーシア、英国などに販路を拡大して販売している。

「英国は伝統的な家屋が多いこともあると思いますが、エアコンを設置していない家が日本より多いと聞きました。ヨーロッパも年々暑さが気になるという声もあり、一定の貢献ができないかと考え、導入を進めました。発売後の初動がよく、計画台数を当初の3倍に上げました」(同)

 国内向けには毎年1・5~2倍の増産をしてきたが、例年7月には売り切れていて、今年もすでに品薄だ。欲しい人は、ソニー公式通販サイトなどで見かけたら早めに入手を。

わずか1度の上昇で心筋梗塞、うつ、早産…

 気候変動とヘルスケアに焦点をあてて活動している医師たちがいる。「みどりのドクターズ」は、総合診療医が中心となり、22年に立ち上げられた有志団体だ。メンバーの一人、岡山協立病院の横田啓医師は、気温が高くなると、熱中症だけでなく、そのほかにも多くの面で健康に問題が出やすくなると話す。

「暑さで体の水分が少なくなると、いわゆるドロドロの血液になり、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞のリスクが高まります。脱水症状により、急性の腎不全で命の危機に陥るケースもあります。ほかにもCOPD(肺気腫)など呼吸器の疾患、精神障害では不安障害やうつ病の症状が出やすく、自殺のリスクも。妊婦が早産するリスクは猛暑日では16%高まることが学術誌で紹介されました」(横田医師)

 暑さの影響で私たちの体のあちこちが悲鳴を上げるらしい。しかも精神面においても。確かに夏は外出が億劫(おっくう)で憂鬱さが優ることもあるが、もしかして暑さによるうつといえるのだろうか。

「可能性はあると思います。夏は寝苦しさから睡眠不足になりがちで、うつになりやすい。暑さによる精神面への影響は、最近、とくに注目されています。南アジアでは顕著で、確かな傾向といえます」(同)

 衝撃的な話だ。論文では気温が1度上がるごとに、どの疾患のリスクが何パーセント上昇するか示されている。わずか1度の違いが、命を左右する。

食事を抜いたら必ず水を飲んで

 暑さの被害を避けるために、夏はどのように生活すればいいのか。

「基本として、過ごす部屋、寝る部屋に温度計と湿度計を置いて、頻繁に確認しましょう。28度以上ならエアコンをつけ、湿度が高い時には除湿機能も併用してください」(同)

 気温だけでなく、湿度の高さも体に影響する。湿度は60%以下を目安にする。そして夜間もエアコンをつける。

「窓を開けておけば涼しいという時代からは、世界が変わってしまったので、エアコンをつけて」(同)

 夜に眠れない場合は、緑茶やコーヒー、ウーロン茶などカフェインが入っている飲み物を午後には飲まないように習慣を変える。カフェインには利尿作用があり、摂取しないことで体のなかの水分を排出してしまうことも防ぐ。

 室内にいても1時間に1度は水や麦茶を飲み、1日では1・2㍑程度を飲むのが目安。適宜、塩分も摂取するようにする。

「食欲不振で食事を抜いてしまったときには、代わりに水分と塩分を補給してください。食事によって意外と多くの水分を体内に取り込んでいるので、食べずに暑い日を過ごすのは危険です」(同)

 強い疲労感や頭痛など、もしも熱中症かもしれないと感じたら、経口補水液で水分補給する。

寝不足、夏バテで熱中症のリスク大に

 熱中症になるのは高齢者ばかりではない。

「体力のない高齢者が重症化しやすいのは確かですが、働き盛りの世代が仕事のために体調不良を我慢せざるを得ない状況が続き、夜になってから、ものすごくしんどくなって救急外来を受診するケースも、かなり多い印象があります」(同)

 実際に横田医師が診た例では、8月の午前4時、工場勤務中の30代男性が倒れて病院に運ばれた。

「意識を喪失して無反応と、大変危ない状態でした。電気代の節約で夜間に稼働する工場も多いようですが、日中ではなく夜間にも、また若い男性でも熱中症になります」(同)

 重大な体調変化を予防するために、夏バテかもしれないと感じた時点で、かかりつけ医に相談しておくことも考えたい。

「食欲不振、だるい、軽い頭痛、不眠といった夏バテくらいなら、自分でなんとかしようという人は多いと思いますが、熱中症の発症は、体調の影響が大きい」(同)

 夏バテは熱中症とつながっていると考えて、体調に気を配りたい。いつもの頭痛が激しい頭痛になったり、だるさが強い倦怠感(けんたいかん)になったりなど、普段と違う体調変化は熱中症の疑いがある。大きな保冷剤などを脇の下や脚の付け根に当ててすぐに体を冷やす。

 もしも自力で水を飲めない、声をかけても応答がおかしい、普段とは受け答えが違う様子なら、迷わず救急車を呼ぶ。

   ×  ×  ×

「実は、みなさんが健康になることは温暖化を止めることにつながり、また、温室効果ガスの抑制はみなさんを健康にするんです」と、みどりのドクターズの呼びかけ人である、佐々木隆史医師は言う。

 医療業界が排出する温室効果ガスの割合は、国内全体の約5%を占める。意外と大きい。

「温暖化により患者が増えることは明らかで、そこを変えたい。ひとが運動と食事の習慣を変えて服薬を減らすことも、CO2削減につながります。昔でいう、三方よし、いまの言葉で〝コベネフィット(Co-Benefit)〟があるんです」(佐々木医師)

 例年の暑さも、慣れたつもりで油断すると危険だ。日々の体調に気をつけて、なんとか乗り切りたい。

(ライター 三村路子)

サンデー毎日 0707号表紙 杉野遥亮
サンデー毎日 0707号表紙 杉野遥亮

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