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PTAを苦しめる「昭和の義務」 著者3人が背景と解決策を徹底解説

PTAについて議論を交わす著者3人
PTAについて議論を交わす著者3人

「踏み込んだ先は『魔界』だった!」「子どもは『人質』、親は『奴隷』」。どれもPTAの話である。令和の時代に変革した団体もあれば、〝昭和の香り〟が残る団体まで玉石混交の「PTAガチャ」時代だ。

 PTAは、英語の「Parent(親)」「Teacher(教師)」「Association(組織)」の頭文字を取った保護者と教職員による任意団体だ。学校とは別組織である。

 ところが、その実情といえば、学校に入学すると自動的に入会させられる強制加入がまかり通ってきた。PTAには広報や校外活動などの委員会が設置され、役員や委員を各クラスから選出することが多い。かつては専業主婦が担い手だったが、共働き世帯が増え、なり手不足は数十年来の課題。小学校では「6年間で子ども1人につき1役」が〝決まり〟ともいわれる。

 子どもが小学生の時、その〝決まり〟に違和感を覚え、PTA改革を11年にわたって取材してきたライターの大塚玲子さん(52)。近著『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)など4冊のPTA関連本を執筆してきた。

 政治学者で専修大法学部教授の岡田憲治さん(61)は東京都内の区立小学校で2018年から3年間、PTA会長を務めた。活動をスリム化し、風通しのいい組織へ。コロナ禍も経験した奮闘は『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版)に詳しい。

 サンデー毎日の山本浩資編集次長(48)は、東京都内の区立小学校で12年から3年間、PTA会長を務めた。義務的なPTAの概念を捨て、完全ボランティアで運営するPTO〈※Oは「Organization(団体)」の略で、応援団の「おー」の意味もある〉に改革した体験は『PTA、やらなきゃダメですか?』(小学館新書)に記した。そんなPTA本の著者3人が、その背景と今後の展望を徹底解説する。<サンデー毎日6月9日号>

◇PTAマイナスイメージの原因は3本の「や」

山本 PTA問題を長年取材してきた大塚さんが、「これはひどい!」と感じた事例は何ですか?

大塚 最近だと「加入しないならお子さんに災害備品を渡せない」と伝えたPTAがあると聞き、びっくりしました。子どもの命にかかわる話ですよ。そもそも、そんな大事なものをなぜPTAに用意させているのか? あとは登下校の活動にまつわる保護者間のトラブルで「通学路を使うなと言われた」という話も聞いたことがあります。PTAはどれだけの権限を持っているのか(苦笑)。

岡田 会員・非会員で子どもに渡すものを変えるっていうのは、完全に企業サービスの発想ですね。財とサービスの交換じゃないですか、それじゃ。通学路については「こっちは学校の委託を受けてやってるんで」くらいの気持ちになっちゃっているのかもしれませんね。

山本 毎年春になると理不尽なPTAの実態が話題になりますが、同じような問題が続いてますよね。

大塚 いっぱいありますね。典型的なのが、いわゆる「免除の儀式」。PTAの役員や委員が「できない理由」をみんなの前で言ったり、紙に書いて提出したりしなければいけないというもの。本来は言う必要はないことです。

岡田 大仰に言えば、憲法21条違反なんですけどね。憲法は「結社の自由」を認めている。つまり結社しない自由も認めているんです。強制的にPTAの委員をさせるということは、自由の余地を認めないということ。人間は奴隷ではないと憲法に書いてあるのだから、憲法違反なんですよ。

山本 12年前、私が会長になった小学校のPTA規約には「会員はすべて平等の義務と権利を有する」とありました。「平等の義務」、苦しいことも平等にとも読める。調べると戦後、1954(昭和29)年に当時の文部省が作成した「小学校『父母と先生の会』(PTA)参考規約」に同じことが書いてあったんです。

大塚 PTAはもともと、米国で誕生したものです。19世紀末、2人の母親が始めた「母親の会」がもとになったといわれています。日本にPTAができたのは戦後。連合国軍総司令部(GHQ)が文部省を通じて、全国の学校にPTAを作らせたのです。日本の大人たちに民主主義を学ばせることを意図し、戦前の「学校後援会」(寄付や手伝いで学校を支える団体)からの脱却を図ったようですが、狙い通りにはいかなかった。PTAはできて間もない頃から、「学校後援会の看板のかけ替え」という指摘を受けてきました。

山本 日本にまだボランティアの概念がなかった時代ですよね。

大塚 PTAへの加入方法も、民主的とは言いがたい形でスタートしました。米国のPTAは「ボランティア」、つまり参加したい人が参加する「自主的な活動」でしたが、当時の日本にそんな発想はなかったのでしょう。現場ではおのずと、昔から日本にあった「隣組」や「学校後援会」のように、「そこにいる人は、全員必ずやるもの」として始まったのでした。

岡田 日本人が持っている「義務」の認識でしょう。苦役や誰かの尻拭いをするといったネガティブな意味としてある感覚を「義務」という言葉が側面から支えてしまう。責任や義務という言葉に込められている心の習慣が、社会集団を運営する普通の大人たちのハートに影を落としているわけです。「みんなちゃんとやんなきゃいけないんだよ」っていうふうに。

山本 PTAは任意団体です。改革を進める中で「参加するのも自由、参加しないのも自由。だから運営はすべてボランティアでやりましょう」と訴えたら、PTA役員を長く務めた女性に言われました。「山本さんの考えは間違っています。子どもが通う学校に奉仕するのは親の義務です」と。

岡田 そういう規範が、どうして戦後も脈々と人の心に残っているのか。これは興味深い問題です。人間の個と共同体とはどういう基本関係なのか。平等とは連帯責任だ、苦しいことをみんなでシェアすることだというのは、ムラ社会ですよ。

山本 世間一般のPTAに対するマイナスイメージの原因は、「平等の義務」の概念から派生する「3本の『や』」にあります。「やらないといけない=義務感」「やらされている=強制感」「やらない人がいる=不公平感」。「3本の『や』がなくなれば、PTAはハッピーになる」。そう説くと、共感する保護者の輪が広がり、完全ボランティア制への移行が進みました。10年たった今も、ボランティア制で続いています。

◇PTAは誰のもの

山本 PTAって何だと思いますか。

大塚 「PTAとは一般的にこういうものだ」と誰かが定義するのはおかしいし、できないとも思うんです。任意団体なので、自分たちで考えるものではないですかね。

岡田 その時の人が決めればいいって意味ですよね。

大塚 そうです。その時の保護者と教職員と、場合によっては地域の人や子どもたちと一緒に考える。その時のメンバーで、PTAとは何か考えて行動することが大事だと思います。

山本 毎年のようにPTAに対する不平不満の声が全国各地で上がるのはなぜ?

大塚 根本は、学校とPTAの区別がついていないからでは。それでPTAが義務、マストだと思われる。子どもが学校に入学すると、保護者はPTAに自動加入することが多いので、そう思うのも無理はありません。

岡田 PTAは任意加入の組織で、入らなければいけないという法律はない。卓球同好会と同じだと説明しても、学校なんだからふざけたこと言うんじゃない、って言われましたね。みんな真面目で、学校だからちゃんとやんなきゃダメだという呪縛があるんです。

山本 岡田さんはPTAとは何だと?

岡田 「大人のはらっぱ」。子どもは10歳の時に最高の能力の段階にあると思っています。でも学校ではその年齢を過ぎると「らしさ」を求められ、「5年生らしくしてください」と言われ始める。「6年生らしく」「中学生らしく」と続く。そうやって学校の中で作り込まれて、萎縮していく。学校だからちゃんとやんなきゃダメだと言っている人たちに邪魔されて、才能を発揮し損ねた10歳以降の人生を取り戻す場だから「大人のはらっぱ」です。上手に自由な発想でPTA活動をすれば、大人のリハビリになる。

大塚 従来のPTAも「いい親らしさ」を求めるような活動が多かったと思います。学校や世間にほめられそうなことを勝手に感じ取って、みんなそこへ押し寄せていったような。

岡田 無意識の忖度(そんたく)だよね。

大塚 恐ろしいですよね。法律があるわけでもないのに、日本中のPTAがこれだけ似たようなことをやってきたのって、相当不自然なことではないですか。

山本 多くのPTAに存在する委員会制度も、戦後に文部省が作った参考規約に明記されていました。ただ近年はPTA運営の理不尽さに気づいて、変わってきたところもあります。

大塚 PTAは任意ということが知られてきたのに加え、おかしいことには声を上げていいという文化も広がってきたからでしょうか。でも、すごく地域差があります。変化が進んだPTAと、昭和のままのPTAと、同時代のはずなのに30年レベルのタイムラグを感じることもあります。

岡田 地方の人と話すと、PTAに関する「常識」が違います。「PTA会長は校長先生のお気に入りだよね。市議会議員を目指しているんだから」とか。僕の地域じゃ全然そんなことはないんだけどね(笑)。

◇PTAの未来は

山本 新型コロナウイルスの影響で、PTA活動がなかった時期もありました。

大塚 3年間活動が止まったけれど特に問題はなかったよね、という感覚がみんなに共有されたので、変化や縮小が後押しされましたね。もともと役員や委員のなり手がいなかったPTAは、ますますなり手が減った。それはそれで、ひっそり続けていけばいいと思うんですけれど、昔の記憶が残っている役員たちは焦ります。このままではPTAがなくなってしまうと思って怖くなる。なかには昔の強制力の強いPTAに戻そうという動きも出てくるでしょうが、踏みとどまってほしいです。

岡田 PTAに人が集まらなくて苦しければ、一度やめればいいんです。苦しい顔をしてまでやる必要はない。人間は幸福のために生きているんだから。まずは、大人も子どもも楽しめるイベントをやって、楽しい時間を共有する中で新しいPTAのあり方を模索していけばいい。PTA役員は役職ではなく、メディア。つまり、〈私〉を通じて人をつなげ、〈私〉を通じて取り組みを発信していく。役員じゃない、メディアだよと自分に言い聞かせると気分は軽くなります。

大塚 もっとPTAは緩くなってほしいし、たぶんそうなっていくと思います。実際、10年前には考えられなかったような事例も見かけるようになりました。保護者の加入率2%のPTAとか、会員制をやめて保護者に活動を呼びかけるだけのところとか、会費ゼロのところとか。PTAから先生を外して保護者だけにする会もありますね。

山本 ホームページやSNSの発信を通して、いろいろなPTAの形が共有できるようになりました。いいなと思った事例は真似(まね)をして、自分たち流に磨けばいい。地域を越えた交流もでてきましたよね。

岡田 結構あります。オンラインでミーティングするのが一般的になり、北海道から沖縄までPTAに関わる友達ができました。交流する中で強く思うのは、社会の中から絶対に失われちゃいけないものは何か。それを守るために大人の工夫をするんだと。その大人の工夫を僕は政治と呼んでいます。「あなたが一番守りたいもの何ですか?」って質問し続けるんですよ。

◇「何のためのPTA?」に立ち返る

大塚 私のPTA取材の出発点は、主に母親たちが負っている義務や負担をなくしたいというところなので、「大切なものを守りたい」という岡田さんと比べるとネガティブかもしれない。PTA活動で犠牲を強いられたり、泣く人が出たりしないようにするためにどうすればいいか。そこを考えながらPTA改革を実践する人たちの取材を続け、発信してきました。

岡田 一人一人の力をなるべく引き出せるような協力のシステムこそ「民主主義」です。多数決で決めるという意味じゃないですよ。一人じゃできないことを協力してできる、人間の力を発見する技法だと。それを民主主義と呼ぼうよって言っています。PTAはそのことを学べる場でもあります。

山本 運営に民意が反映されているかも大事ですよね。大塚さんに「PTAあるある」を10個挙げてもらいました。〝昭和の香り〟が残る事例の数々です。私も経験しましたが、仲間と協力すれば全部解消できます。

大塚 今回は岡田さんや山本さんも経験されていそうな「役員あるある」でまとめてみました。役員さんがラクにならないとPTAは変わらないと思うんです。他の保護者に対して、「私は苦労したんだから、あなたも苦労しなさい」という呪(のろ)いの連鎖が続いてしまうから。

岡田 この「あるある」がコロナ後に見直されている地域もあるでしょう。いずれにせよ、ここに共通しているのはやはり「やらされている」という意識から生まれるネガティブな感情の転嫁と抑圧の移譲ですね。常に「何のためのPTA?」に立ち返ってほしいです。

◇「PTAあるある」(大塚玲子さん監修) 

①「何もしなくていい」と言われて引き受けた役職の仕事が膨大

「会長は入学式と卒業式と運動会のあいさつだけでいいから」。実際はそんなことはなく……。

②「役員のなり手がいない」と嘆くわりに立候補者は排除される

立候補したのに「あの人はちょっと……」とダメ出し。名前が早く挙がると潰されるのは世の常?

③PTA総会をシャンシャンで終わらせるための「台本」がある

そんなに早く終わらせたいだけの総会なら書面総会でいいのでは。

④会計監査は「計算間違いの有無」の確認役

用途の適否はスルー。役員会の中で一番ラクな仕事としてオススメされます。

⑤PTAが学校に渡すお金はナゾの費目で処理される

「活動助成金」ってナニ? PTA会費の不正流用や持ち逃げといった事件もありましたね。

⑥役員決めでは「できない理由」を言わされる

「下の子どもが小さくて」「親の介護がありまして」って言わなきゃいけないこと?

⑦活動を減らすと「ポイントがたまらなくなる」と反対される

〝活動に参加したか見える化〟するために導入されたポイント制。子どもが卒業するまでにためるべきポイント数が決まっているため、活動をスリム化できない……。

⑧夜や土日に活動したいと言って校長や副校長先生が困り顔

PTA活動のために、先生に休日出勤をお願いするのは酷ですよね。

⑨伝聞スタイルの悪口が聞こえてくる

「〇〇ちゃんのママはちょっと」。聞きたくないのに耳にするウワサの温床は、イヤイヤ活動してるから。

⑩会議時間のうち半分は資料の読み上げ

「忙しいのに時間のムダ」とフルタイムワーカーがキレるのは当たり前。ますます険悪なムードに。

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