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2025年度大学入試はこうなる 少子化で進む「理系」シフト トレンドはデジタルと女子

岩手大農学部の「旧盛岡高等農林学校本館」
岩手大農学部の「旧盛岡高等農林学校本館」

 18歳人口の減少が経営を直撃することから、急激な少子化が止まらない中で大学は危機感を募らせている。学部・学科の新設やキャンパス移転、入試方式の変更など、大学が存続をかけて取り組むさまざまな改革についてみていこう。

 少子化の加速度は増すばかり。2023年の出生数は前年を4万3482人下回る72万7277人となり、8年連続の減少で過去最少を更新した。志願者数の減少に頭を悩ませる大学関係者は、大きな危機感を持って受け止めたことだろう。代々木ゼミナール教育総合研究所主幹研究員の坂口幸世氏は言う。

「1992年のピーク時から18歳人口が減っていくのは分かっていましたが、想像以上に急速に進んだと大学関係者は感じているでしょう。大学進学率が上がったとしても、大学入学者数が大幅に減少することは避けられません」

 2023年度の4年制大学進学率は57・7%。この進学率を当てはめると、23年生まれの大学入学者数は約41万人となり、23年度の入学者数約62万人を21万人下回ることになる。定員1万人規模の大学が20校ほどなくなる計算だ。

 すでに定員割れの大学は多く、日本私立学校振興・共済事業団によると、23年度時点で全私立大の53・3%に上る。これらの大学にとって厳しいのは、定員充足の程度によりペナルティーが科されること。代ゼミの坂口氏が続ける。

「定員充足率が著しく低い大学は、私学助成金がカットされ修学支援新制度の対象から外れます。ただ、募集が厳しいからといって地方の大学を無くすと、若者の流出により地方創生が進まない。ダウンサイジングによる存続が理想ですが、その先行きが見えてこない状況です」

 修学支援新制度とは、世帯収入が低い家庭の学生の学費を免除もしくは減免し、さらに奨学金を給付する高等教育のいわゆる無償化制度のこと。助成金カットや修学支援新制度の対象外とならないように、募集定員を減らして定員充足率を上げる大学もある。

 このような状況の中、多くの大学は現状の定員規模の確保を目指してさまざまな改革を進める。74㌻の「2025年度入試 主な大学の学部学科改組・入試変更点」をみると、そのトレンドの一つは、人材が払底している、デジタル分野の人材養成を目指す情報系学部・学科の新設といえそうだ。

 改革の背景には、補助金をつけて成長分野であるDX人材やGX人材養成のための学部・学科の整備を促す、文科省による「大学・高専機能強化支援事業」がある。25年度には、秋田大・情報データ科学部や山形大・社会共創デジタル学環、神戸大・システム情報学部、帝京大・理工学部のデータサイエンス学科、関西大・ビジネスデータサイエンス学部、松山大・情報学部などが新設予定だ。

 情報系学部の整備が進む中で注目したいのは、情報デザイン、メディア情報、情報理工の情報系3学部を新設する金沢工業大。ハードウエアやセキュリティーについて学ぶ理系志向の情報理工学部と情報の活用について学ぶ文理探究型の2学部の連携による3学部体制で、情報に関する包括的な教育・研究体制を構築する。

 その他にも、岩手大が獣医学部を新設し理工学部と農学部を再編、秋田大は理工学部を総合環境理工学部に改組。私立大では、愛知淑徳大が建築学部を新設し、追手門学院大は数理・データサイエンス学科を有する理工学部を設置する。

難関大で女子枠拡大 女子大の改革も進む

 理系学部の女子枠の拡大も理系シフトの一環といえよう。名古屋大は新たに工学部の化学生命工と機械・航空宇宙工の2学科、神戸大は新設のシステム情報学部で学校推薦型選抜の女子枠を導入するとしている。24年度に物質理工など4学院で総合型や学校推薦型選抜の女子枠を導入した東京工業大は、実施学院を理学院と工学院にも拡大。26年度には京大や大阪大も理系の一部学部で女子枠を導入するとしている。

 文・人文系や家政系などを目指す女子が減少し、社会科学系や理工系の人気が上がるなど、女子の志望動向の変化に伴い志願者数の減少が進む女子大も改革が急だ。大妻女子大がデータサイエンス学部を新設し、東京女子大は、現代教養学部を国際社会や経済経営、情報数理科などの6学科体制に改組する。両大学ともに情報系や社会科学系の充実を進める。

 さらに、日本女子大は食科学部、フェリス女学院大は国際社会学科を有するグローバル教養学部を新設。武庫川女子大は環境共生学部を開設予定だ。東京家政学院大は、25年度から一部の学部を共学化するとしている。

 キャンパスの利便性を高める大学も多い。東京理科大・薬学部は、千葉県野田市の野田キャンパスから東京都葛飾区の葛飾キャンパスに移り、龍谷大・社会学部は、滋賀県大津市の瀬田キャンパスから京都市内の深草キャンパスに移転。前出の追手門学院大・理工学部は大阪府茨木市の総持寺キャンパスに開設される。

 志願者数より優秀な学生の獲得を優先する難関私立大では、一般選抜のハードルを上げる動きがみられる。

 慶應義塾大・経済学部は学校推薦型選抜を導入するために一般選抜の募集人員は630人から600人となる。早稲田大は、21年度に政治経済学部などから始まった、大学入学共通テストと独自試験の併用方式を社会科学部と人間科学部でも採用する。

 難関大入試で気になるのは、東京医科歯科大と東京工業大の統合により誕生する東京科学大のレベルがどうなるのか。代ゼミの坂口氏は言う。

「今すぐに入試に影響はないと思いますが、医療系と理工系のトップ大学の統合により卓越した研究成果が出ると、統合効果が表れる可能性があります。今の理工系入試の序列は、東大、京大、東工大の順ですが、東京科学大となって研究力が上がると、この序列が変わるかもしれません」

 100万人以上を維持している18歳人口は、35年度に90万人台になることから、今が少子化問題を乗り切る最後のチャンスとして大学改革が活発化している。受験生に影響する改革が大半なので、志望校の状況を注視したい。〈サンデー毎日6月30日号(6月18日発売)より〉

「サンデー毎日」6月30日号表紙
「サンデー毎日」6月30日号表紙

6月18日発売の「サンデー毎日 6月30日号」には、ほかにも「田原総一朗が直撃! 蓮舫『都知事選、私はこう戦う』「バレーボール男子日本代表 グラビア&ルポ9P大特集」「『親の介護のリアル』50代記者×コラムニストが本音対談」」などの記事も掲載しています。

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