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東大卒の33歳、東京都知事選で掲げる「デジタル民主主義」って何?

YouTubeのライブ配信機能で公開されている「AIあんの」。コメント欄に質問や要望を入力すると、安野貴博氏の公約などを学習したAIが回答してくれる=安野氏のYouTubeチャンネルより
YouTubeのライブ配信機能で公開されている「AIあんの」。コメント欄に質問や要望を入力すると、安野貴博氏の公約などを学習したAIが回答してくれる=安野氏のYouTubeチャンネルより

「デジタル民主主義」を掲げ、東京都知事選に立候補した33歳のAI(人工知能)エンジニア。9歳からプログラミングを始め、開成高校から東京大工学部に進むと、二つの会社を創業し、SF作家にもなった。何を思い、どんな選挙戦を展開しているのか。

 都知事選の告示から1週間たった6月26日午後9時すぎ。東京・築地のシェアオフィスの会議室で、長髪を後ろに束ねた安野(あんの)貴博氏(33)が、YouTubeのライブ配信を始めた。

「さっきまで新宿で街頭演説をしていて、急いで事務所に戻って、そうめんを3分で食べて今に至ります」

 視聴者が書き込むコメントに答えながら、笑顔を振りまく。そして、自身が掲げる政策を訴えていく。

「きく、みがく、つたえる。この三つの新しい試みをしています」

〝きく〟はみんなの声を集めるとして、SNSなどで集まった意見をAIを活用して見える化し、政策に反映する試みだ。告示前には同じ仕組みを使い、2023~24年の間に東京都議会で議論された論点を整理し、公開した。

〝みがく〟は、誰もが政策に改善提案できる仕組みで、政策に直接コメントしたり、変更を提案したりできる。そうした意見も踏まえながら、政策集(マニフェスト)の詳細版は選挙戦途中でも更新している。

〝つたえる〟は、安野氏の政策を学習した「AIあんの」がYouTubeと電話で24時間、質問に答える試みだ。質問すると、安野氏に似せた声で答えてくれる。試しに「一番訴えたい政策は何ですか」と聞くと、「新産業の創出や先端技術による安全安心な東京作り、子育て教育環境の改善などを実現します」と答えた。公開から5日間で、6000件を超える質問に対応したという。

 有権者と政治をつなぐテクノロジーとして、AIを活用する。安野氏は言う。

「今の民主主義システムは数百年前にデザインされたものです。スマートフォンもなければ、コンピューターもない。AIなんて想像できなかった。そんな時代に作られた制度を使い続けています。テクノロジーを使うことで、民主主義のシステム、政治をアップデートできると思います」

 安野氏が告示日の20日に発表したマニフェストの詳細版は約90ページに及ぶ。タイトルは「テクノロジーで誰も取り残さない東京へ」。研究者、エンジニア、コンサルタント、教員、医療従事者など100人以上の専門家から、チームで分担してヒアリングし、政策をまとめ上げたという。早稲田大マニフェスト研究所が都知事選候補者の公約を比較したページでは、トップの評価を得た。

「チームのコアメンバーは80人ぐらい。日本だけでなく、カリフォルニア、シンガポール、フィリピン、パリ、ロンドンにもいます。世界中に仲間がいるので、24時間態勢で対応できる」と安野氏。これまでの仕事などで培った人脈を生かし、仲間を集めた。

◇二刀流の選挙戦術、情報を公開

東京都知事選告示日の6月20日、原宿駅前で街頭演説する安野貴博氏
東京都知事選告示日の6月20日、原宿駅前で街頭演説する安野貴博氏

 プログラミングを始めたのは9歳の時。家にあったパソコンのソフトを一つ一つ開いては、何ができるか試した。「11歳の時にはパソコン上で動くゲームアプリを作って友だちに遊んでもらいました」(安野氏)

 開成高から東京大工学部に進み、AI研究の国内の第一人者である松尾豊教授の研究室で学んだ。学生時代から国会議事録のデータを解析し、議員の質問の特徴を分析するなど「政治の可視化」には関心があった。

「政局ではなく政策を」。今回の都知事選に立候補した一番の理由だ。「東京を良くしたいと思っているのはどの候補者も同じ。お互いを攻撃するのではなく、お互いに学び合うことで主張をブラッシュアップできる」と話す。

 26日午後2時からは、候補者の一人でタレントの清水国明氏(73)と柴又帝釈天で選挙カーを並べ、合同演説会を開催。清水氏が訴える「防災」について、安野氏はテクノロジーの視点から災害時における避難者の把握方法などを提案した。

 同日夜には新宿駅前で街頭演説。そこに、70代の女性2人組が安野氏の選挙ポスターを受け取りに来ていた。「スマホでいい候補者がいないか検索して、この人なら応援したいと思った」と女性たちは、ポスターを張るボランティアに登録したという。都内に約1万4000カ所ある掲示板。告示から1週間、ボランティア約300人で都心部はほぼ張り終えたという。

 安野氏は「ネットだけでは拾えない声もたくさんある。街頭に立つことで知ったこともマニフェストに生かしたい」とも話す。25日には伊豆大島を訪れ、早速アイデアを巡らせた。

「島ではドライバーが不足し、交通の便が悪くて困っていると聞いたのですが、島は道が舗装されていて、インターネットの環境はいい。道路の長さも短いので、自動運転の技術を生かす実験場所にできる」

 ネットとリアルの融合。「AIあんの」と「人間あんの」の二刀流の選挙戦術はどこまでアップデートできるのか。「デジタル民主主義」の挑戦で培った情報や技術は選挙後、公開するという。(山本浩資)

<サンデー毎日7月14日号(7月2日発売)より>

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