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BYD SEAL1000キロ試乗記② スポーティーなデザインに高い充電性能 電費は1キロワット時=4~8キロ 稲留正英・編集部
中国BYDの最新EVセダン SEALの試乗2日目。この日は、伊勢志摩地方の観光スポットを巡りながら、SEALのデザイン、使い勝手、充電性能、電費などを検証することにした。
「シンプルなデザインのモデル3」対「情感に訴えるSEAL」
宿の御主人からも、「これは何という車なんですか」と注目を集めたSEAL。前方から見ると、シャープで大型のヘッドライト、ボンネット先端中央部に向かい低く絞り込まれるノーズ、そして、バンパーの左右にある幾重にもなった三角形のLEDのポジショニングランプ(車幅灯。夜間にクルマの存在を知らせる)がスポーティーだ。昨年10月に日本で大幅な商品改良を施した米テスラモデル3がよりシンプルな造形を追求したのに対し、SEALはより情感に訴えるデザインと言える。ここは個人の好みの問題だと思うが、SEALのデザインの方が好きという人はいるはずだ。
私がSEALで一番気に入ったのは、横から見た姿。前輪のオーバーハング(タイヤの中心から外にはみ出した部分)が短く、2.9メートル超の長いホイールベースによりタイヤがボディの四隅にのびやかに配置され、踏ん張り感がある。
リアのデザインはやや平凡
リアはバンパー下部の大型ディフューザー(高速走行時に車体下部で発生する気流を整え、走行安定性を高める装置)が目を引く。ただ、フロントとサイドの躍動感のあるデザインに比べると、横一文字のリアランプは最近のトレンドを追った、やや平凡な印象を受ける。
車内は長いホイールベースの恩恵で広い。ガラスルーフは前席から後席まで1枚ガラスで構成されている。モデル3も全面ガラスルーフだが、真横に強度を確保するための太い梁が入っているため、SEALほどの開放感はない。後席は足元が広くアームレスト、エアコンの吹き出し口、スマホを充電するUSBポートがあり、快適に過ごせる。背の高いSUVから乗り換えても、狭くは感じないはずだ。
内装は柔らかな素材を多用、長時間移動時にくつろげる
車内ではダッシュボードやドアの内張に柔らかい素材が多用され、手触りも良い。シートは高級素材であるナッパレザーを使う。前席はシートポジションの記憶機能があるので、背の高さの違う家族間で使うのに便利だ。また、BYD純正のフロアカーペットは毛足が長くフカフカで、長時間の移動時に靴を脱いでくつろぐのにとても快適だった。
車載オーディオもデンマークの「Dynaudio」製で12個のスピーカーを搭載し、良い音だった。
トランクは、ボンネット内に容量50リットル、リアに容量400リットルのものを備える。リアのトランクは大人3人の一泊旅行の荷物を入れるには十分だった。
気になる車内のプラスチック臭
SEALで気になった点を挙げると、車内の匂いがある。結構強めのプラスチック臭がするのだ。新車のタクシーやベースグレードの日本車に乗った時の感じと言えば分かるだろうか。欧州の高級車はいずれも、車内の香りには気を使っており、目をつぶっても、メーカー名を当てられるくらい特徴がある。BYDも匂いに気を遣うようになったら、さらに欧州のライバルに肉薄すると思う。
ダッシュボード中央に配置されている15.6インチの大型液晶画面はタッチパネルになっており、ここで、車両、ナビ、オーディオ、空調の各種設定を変えることができる。モデル3と同様、エアコンの風向きもタッチパネルで操作するが、やはり、走行中は操作しにくかった。空調は頻繁に使うものだから、これは、独立した物理ボタンにした方が良い。
液晶画面の操作性はテスラに軍配も360度カメラの画質は圧勝
テスラモデル3も15インチの大型液晶画面で各種の操作をするが、SEALより階層構造がよく整理されており、慣れると直観的に使える。一方、SEALはアプリの操作性がバラバラ。また、車両制御系のソフトは階層が深く、希望するメニューにたどりつくのにひと苦労する。ここは、テスラに一日の長があると感じる。
ただ、車の周囲を鳥瞰で360度見渡すSEALの「アラウンドビューカメラ」は高画質で、また、車体がシースルーになるので、バックで駐車する際に、後輪のタイヤの位置が一目瞭然。対するテスラのアラウンドビューカメラは、もやっと不鮮明な画像が表示されるだけなので、この機能は明らかにBYDの圧勝だ。
90度回転する液晶画面はナビとして使う場合、地図が縦に表示でき便利だ。ただし、液晶画面の真下にスマホのワイヤレス充電のホルダーがあるため、スマホの置き方が悪いと、回転時に接触してしまうことが何回かあった。
使い勝手の良いポップアップ式のドアハンドル
ボディの外装では、ポップアップ式のドアハンドルは使い勝手が良い。テスラモデル3は親指で押しながらレバーを引き上げてドアを開けるので、特に、爪を伸ばした女性には使いにくいはずだ。SEALはボタンを押すとハンドルが引っ込み、ドア表面がフラットになる。走行時の空力にも配慮している。
さて、EVの肝である充電性能はどうか。BYDはリン酸鉄(LFP)リチウムイン電池を薄い板状に加工した「ブレードバッテリー」を開発・製造している。SEALはこれを直接、車体に並べて接合する「CTB(Cell to Body)」技術を採用している。電池をボディの一部として使うことで、車体の剛性が高まる利点があるという。電池の容量は同じLFP電池を載せるテスラモデル3の後輪駆動モデルが60キロワット時であるのに対し、82キロワット時と多い。
最大105キロワットで充電可能 今回は80キロワット以上を記録
SEALはカタログ上では最大105キロワットで充電できる。今回、往路では4回、復路で4回、計8回充電した。実際の充電の様子は表1に示した。このうち、往路の①東名高速海老名SA(下り)、②新東名高速駿河湾沼津SA(下り)、③同長篠設楽原PA(下り)、復路の④セブンイレブン伊勢市中村町店(伊勢神宮内宮の近く)、⑤新東名駿河湾沼津SA(上り)――の5カ所が90キロワット以上の高出力充電器だった。①で77.8キロワット、③で84キロワット、⑤で80.8キロワットの充電出力を記録した。充電の速度は十分に速いと思う。
①②④⑧で一部の航続可能距離が「?」となっているのは、こちらの不手際で、記録できなかったため。SEALは一旦、充電を開始すると、ハンドル奥の10インチの液晶画面に航続可能距離が表示されない。ここは、航続可能距離が表示されるようにBYDにソフトウエアのアップデートをお願いしたい。
航続可能距離は600キロ以上 電池切れを心配する場面はなく
ただ、充電率が4割以上あれば、航続可能距離は250キロ以上ある。急速充電器へのアクセスが一番悪かった伊勢市阿児町安乗の「岬の宿磯崎」でも、充電率は47%、航続可能距離は288キロあった。2日間の行程のいずれの時点でも、SEALの電池切れを心配する場面はなかった。
表2には、SEALの電費を示した。走行距離10キロ以上の区間に限ると、最低で1キロワット時=4.09キロ、最高で同8.25キロ。平均でみると5~6キロは走る印象だ。2100キロの車重を考えると、電費は悪くない。満充電にすると、航続可能距離は600キロ以上を表示する。年数回の遠出でも、実用性は十分に確保されている。次回は伊勢志摩の観光スポットについて紹介し、最終回としたい。
(稲留正英・編集部)
(次に続く)