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教養・歴史 書評

“日本にない”民主主義が機能している国、台湾を読み解く 評者・服部茂幸

『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』

著者 渡辺将人(慶応義塾大学准教授) 中公新書 1188円

 わたなべ・まさひと
 1975年生まれ。シカゴ大学大学院国際関係論修士課程修了。米下院議員事務所・上院選本部勤務等を経て現職。専門はアメリカ政治。著書に『メディアが動かすアメリカ』『大統領の条件』など。

 台湾は人口2300万人程度の小国である。日本やアメリカも含め、圧倒的多数の国は台湾を国と認めていない。アイデンティティーも複雑である。中国との関係で、左右に中国、台湾のナショナリズムがあり、間に台湾アイデンティティーがある(台湾アイデンティティーというのは、台湾の独立を意味しない)。人口のほとんど全てを占める漢族は、本省人、客家(ハッカ)系本省人、外省人に分かれ、少数ながら原住民もいる。1949年に大陸を追われた国民党政権は独裁政権だったが、今ではアジアで最も民主的な国と評価されている。経済も1人当たりの実質GDPでは日本を超えた。このように小さくとも、複雑で、重要な国のデモクラシーをジャーナリズム、選挙、アメリカから読み解くのが本書である。

 蒋介石の亡命政権以来、台湾の命運を担ってきたのはアメリカだった。アメリカへの留学生や移民は台湾の民主化を進める点で大きな役割をはたした。現在でも望ましい政治家はアメリカで博士号を取った英語のできる学者政治家である。しかし民主化後の今でも、かつて独裁政権だった国民党は2大政党の一つとして台湾の民主主義を支えている。1990年代からテレビのチャンネルが増え、それを背景にテレビの政治的中立性が緩和された。これによりアメリカでも起きているように、メディアが政治と社会の分断を手助けすることになってしまった。

 台湾にとって、中国の存在は大きい。大陸にドラマを売りたいテレビ局や大陸で商売をしている財界人は中国政府の意向に気を使っている。これに関連して、政治的に自由でない体制で市場メディアができると、政府が経済的インセンティブでメディアを操作するツールを持つことになると本書は指摘する。本書は選挙が行われているだけでは、民主主義とはいえないことも強調する。逆に政権交代が起きても、野党による統治に不満が広がれば、一党支配の方がましという揺り戻しが起きる。

 台湾では2大政党制が機能している。ジャーナリズムは政治的に分断していても、社会運動で政府を作り上げた経験があるために国民はシニシズム(冷笑主義)に陥らない。同時にそれが市民の政治参加を生み出している。最後に、民主化を後押しする海外ネットワークがある。

 振り返ってみれば、これら全てが欠如しているのが我が日本である。だから、旧統一教会や裏金問題で騒いでも、シニシズムを生むだけで終わる。今や日本は選挙権威主義になっているのではないだろうか。

(服部茂幸・同志社大学教授)


週刊エコノミスト2024年9月24日・10月1日合併号掲載

『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』 評者・服部茂幸

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