経済・企業 2025年の経営者

2026年度最終益6500億円へ手応え――上野真吾・住友商事社長

Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

住友商事社長 上野真吾

うえの・しんご
 1959年兵庫県出身。私立六甲学院高校卒、慶応義塾大学商学部卒業。82年住友商事入社。欧州での鋼管部門長や北米での鋼管グループ長を経て、2013年執行役員エネルギー本部長。17年常務米州総支配人、19年専務資源・化学品事業部門長などを経て21年に副社長。24年から現職。65歳。

 Interviewer 岩崎誠(本誌編集長)

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── 昨年5月に発表した2026年度までの新中期経営計画で「No.1事業群」を掲げました。社員の変化をどう感じますか。

上野 これまでの中期経営計画においてさまざまな事業の再生を中心にリスクに対する強化をしてきました。そこから一転、一気に成長に目を向けてほしいとの思いを込めました。商社としてのビジネスラインは多岐にわたります。そこで、各事業ごとにナンバーワンを目指してほしい。利益率でも成長率でも、あるいは顧客満足度でもかまいません。事業ごとの強みをさらに強めながらナンバーワンを目指そうよ、と。社員全体が、目標の変化を実感し、意識は大きく変わったと捉えています。

── 経営会議の意思決定方法も「全会一致」から「多数決」に変えました。効果はいかがですか。

上野 経営会議の改革の前に、まず60年間続けてきた部門制を改めました。同じような戦略のビジネスラインを集め、新たに九つの「グループ」、さらにその下に44の「Strategic Business Unit(SBU)」を設置しました。SBUにはある程度の自立経営も求めています。経営会議は迅速に意思決定を進められるよう多数決に変えました。12人いたメンバーも7人に減らし、必ずその場で決まるようにしました。一方、議論も尽くせるよう非常にささいなことかもしれませんが、会議の部屋を小さくしました。膝をつき合わせ、挙手制もやめ、意見が出やすくなりました。議論の質も上げられています。

── 26年度に最終利益を6500億円まで引き上げる計画を示しています。23年度は3863億円でした。足元では24年4〜9月期の純利益が前年同期比11%減と、苦戦している事業もあるようにみえます。

上野 確かに前年同期比でみると数字が下がっていますが、まず23年度は一過性の利益がありました。また、24年度は下半期(24年10月〜25年3月)に伸びるビジネスも多くあります。手応えもあり、目標は達成できると考えています。

── SBUへの改革で手応えはさらに増しているのでしょうか。

上野 SBUは、10人のところもあれば400人のところもあります。部門制での「本部」では、各本部を同じくらいの人数にといったサイズ感ありきの面がありました。それを、戦略ごとに必要な人数で束ねたのです。SBU長に、現場をよく知る人を抜てきできるようになりました。

 加えて、社内における人材の異動もしやすくなりました。戦略ごとに束ねたため、必要な人材も明確化され、グループ長が必要だと思う人材を迅速に集められます。例えば都市総合開発を行っているグループがあります。プロジェクトには不動産や社会インフラに詳しい担当者も必要ですが、過去の組織では不動産、社会インフラの担当は異なる部門でした。SBUは並列に組織されていることもあり、人材の異動がスムーズになりました。

── まさにその都市総合開発では、ベトナム・ハノイ北部で「サステナブルシティ」を掲げたプロジェクトを進めていますね。

上野 おおよそ東京ディズニーランド5個分の広さの地域で、約8万人が住み、約5万人が就業する巨大な街づくりを現地の企業と進めています。この広さでサステナブル(持続可能)な街を目指すには、街づくりに関わるさまざまな経験を持つ人材や知見を集めなければなりません。SBUにしたことで総合力を発揮できています。

エネ事業は拡大期待

── 成長事業の一つに再生可能エネルギー分野を位置づけ、関連分野には30年までに1.5兆円を投資していくとしています。

上野 具体的には(既存のエネルギーシステムから異なるエネルギーシステムへ移行する)「エネルギートランジション」に対して投じるとしていますが、この分野での社会的要請はより大きくなっていると感じています。ひょっとしたらもっと大きい額になるかもしれません。

 風力発電や太陽光パネルを設置したいという直接的な再生可能エネルギー分野への期待の声もあれば、不動産分野でいえばZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を意識したビル建設のほか、生産段階において二酸化炭素排出量のより少ないセメントや鉄はないか、との要望も多くあります。顧客からの多様な声も背景に、より大きな資金を投入するビジネスになる可能性があると考えています。

── BtoC(一般消費者向け)では子会社にスーパー事業の「サミット」があります。イトーヨーカ堂が売りに出されていますが、魅力をどう感じますか。

上野 今は何も申し上げられませんが、一般的な話としては、サミットは首都圏でかなり上位に位置し、収益性も確保できていると捉えています。その強みを生かせるようなビジネスがこの分野でできたらいいなという考えは持っています。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q 30代のころはどんなビジネスパーソンでしたか

A 当時の部署がビジネスモデルの転換期で、現場から戦略書を書いて上司に提出していました。青臭く、めんどくさいヤツだったと思います。

Q 「好きな本」は

A おすすめの本は『あるノルウェーの大工の日記』なのですが、映画も紹介させてください。アカデミー賞映画「グリーンブック」はラストシーンが忘れられません。

Q 休日の過ごし方

A ジムでの体力作りとB級グルメの食べ歩きです。


事業内容:総合商社

本社所在地:東京都千代田区

設立:1919年12月24日

資本金:2210億円(2024年9月末)

従業員数:8万1288人(24年9月末現在、連結)

業績(24年3月期〈IFRS〉、連結)

 収益:6兆9103億円

 最終利益:3863億円


週刊エコノミスト2025年1月28日号掲載

編集長インタビュー 上野真吾 住友商事社長

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