限界集落の釣り場でムラ興し――米丸知成さん
フィッシングパークひらの代表 米丸知成
よねまる・ともしげ
1971年、福岡県出身。96年島根大教育学部卒業。同年、福岡県教職員に採用され、小学校教諭に。2022年3月末に退職、同年4月から現職。
九州佐賀の標高400メートルの山中。管理釣り場でニジマスなどをルアーやフライの疑似餌で狙う「エリアトラウトフィッシング」の魅力を発信している。(聞き手=徳永敬・ライター)
ここの管理釣り場は、2008年に廃校になった厳木(きゅうらぎ)小学校平之(ひらの)分校(佐賀県唐津市厳木町平之)のプールを活用し、地域活性化のために地元の人たちがニジマスの養殖を始め、その魚を生かして「平之ニジマス釣り堀公園」を造ったのが始まりです。たまたまここを訪れ、地域の方との出会いを通してボランティアで運営に関わるようになりました。
平之地区は、三十数世帯の集落で、平均年齢は70歳超の限界集落。さらに、釣りをしない方たちが運営していたので、当初ルールはなく、ホームページ(HP)やSNSなどを使ったPRもしていなかった。来場者はまばらで、迷惑釣り人の被害で無法地帯となっていました。「何とかしなければ」「できることを手伝おう」。ルールやHPを作り、名称も「フィッシングパークひらの」に変更してイメージチェンジを図りました。
エリアトラウトフィッシングは、関東や関西を中心に人気の高い釣りのジャンルですが、九州には釣り場も少なくまだ普及していません。キャッチ&リリースを基本とし、目の前にいる魚が、どうやったらルアーに食いつくか、魚との駆け引きを楽しむ釣りです。時間内に釣った魚の数を競う大会も全国で開催され、スポーツ(ゲーム)フィッシングとも呼ばれます。
平之地区に関わるようになった当時は福岡県の小学校の教員でした。釣り場には跡継ぎがおらず「定年後に引き継げたらいいな」と漠然と考えていましたが、地域の人たちの年齢を考えると「間に合わない」「教員の代わりはいくらでもいるが、ここを継げるのは自分しかいない」と一念発起。節目の50歳で早期退職して、管理釣り場のオーナーになりました。
そんな時、佐賀県のビジネスプランコンテスト「さがラボチャレンジカップ」を知って応募。優秀賞受賞が転機になりました。地元メディアに取り上げられ、県や釣り具メーカーなどの支援も受けられるようになったのです。
「幸せな生き方」提案も
施設は約1.5ヘクタールに拡大され、24年11月には、地元の土木建設会社の協力もあって、念願の二つ目の釣り場=第2ポンド(池)が完成しました。横を流れる平之川は、国土交通省が発表する「最も水質の良好な河川」に何度も選ばれている厳木川の上流で、生活排水の全く入らない水を引いています。水の透明度がとても高く、魚の動きや反応がよく見えて、ゲームフィッシングには最適です。今後は、大手釣り具メーカー主催の九州初となるトーナメントの予選も開催される予定です。これまで、年間利用者は約2000人でしたが、今後は1万人の利用を見込んでいて、事業の発展が期待されます。
初心者から熟練者まで「みんなに愛される釣り場」にするのが目標ですが、一方で、さまざまな事業展開を通して限界集落を持続可能な地域に再生することが最終的な目的です。中山間の限界集落に新産業を興し、自分のやりたいことや好きなことで働き生きていく「幸せな生き方」を提案していきます。就業をきっかけとした移住により定住人口を生み出し、持続可能な地域をつくるチャレンジを続けます。
企業概要
事業内容:ニジマスの自家養殖、管理釣り場営業・情報発信、釣りイベント開催
本社所在地:佐賀県唐津市
設立:2022年4月
従業員数:従業員、パート・アルバイト計6人(25年6月予定)
週刊エコノミスト2025年1月28日号掲載
米丸知成 フィッシングパークひらの代表 限界集落の釣り場でムラ興し