リーマン・ショック10年 私のリーマン・ショック 宮内義彦 メルカリ100社で資本主義に対峙するしかない
リーマン・ショックの教訓は二つある。一つは1990年代のバブル崩壊で、バブルは悪いことだと政策的に潰し、それを銀行の責任にして後始末に7、8年もかけた。それによって日本経済はすっかり駄目になってしまった。これが私の解釈だ。
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ところが、米国は日本と全く逆のことをした。資本市場の国として市場が機能しなくなれば、銀行から証券会社、大手企業まですべて破綻する。だから投資銀行から自動車メーカーに至るまで公的資金を供給し救済した。これは日本のバブル潰しの失敗から学んだ教訓だ。
もう一つは金融市場に頼ることの恐ろしさ。オリックスは資本市場から100%資金を調達してもよかったが、当時40%以上は金融機関から借り入れていた。結果的にこれが命綱になった。直接金融と間接金融のバランスが重要だと改めて思い知った。
今後の懸念材料は欧州だろう。盤石だったドイツの状況が変わってきたし、ギリシャの債務問題も片付いていない。イタリアやスペインの経済にも問題が残ったままだ。EU(欧州連合)諸国は政治的にも不安定で、何が起きるか分からない。おそらく次の危機が起きるとしたら欧州ではないか。
一方で、米国も不透明だ。トランプ政権が矢継ぎ早に政策を打ち出している。税制改革や移民政策、貿易政策など。国民に歓迎されているところもあるが、それが世界経済にどう跳ね返ってくるかは分からない。中国との関係が、どこまでシビアになるかが焦点だろう。
一つ言えるのは、かつての冷戦時代の米ソと現在の米中の関係の圧倒的な違いだ。つまり、経済が極めて緊密化している。
日本企業は官僚組織
もう一つ注目は、米国で始まったデジタル経済と、個人情報の規制が少ない中国の国家資本主義の両方が世界に台頭している問題だ。米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は世界的な独占企業であり、それを制御する道がないままに世界経済を覆ってしまった。一方の中国は、市場を十分に開放しないままにGAFAのノウハウを全部取って中国版GAFAを作った。
つまり、いままでの資本主義では考えられないような事態が起きている。中国のアリババ集団(ネット通販最大手)やテンセント(メッセンジャーアプリ最大手)は政府に言われて設立された会社ではないが、いまや政府と深い関係を築き、国家資本主義の一翼を担っている。
資本主義は非常に混沌(こんとん)とした状況に入っている。かつては国内市場を独占禁止法で制御していたが、国境を軽々と越えるグローバル時代のいま、それが難しい。経済全体がデジタルに引きずられ、政治や規制が追い付いていけない。要するに、国家資本主義とデジタル資本主義の両方が台頭する時代だ。これは誰も想定していなかったのではないか。日本は全く対応できていない。蚊帳の外。
日本は官庁だけでなく、民間企業のトップ数百社もすべて官僚組織のようになっている。前例踏襲でイノベーティブなことができない。社長は無難に役割を果たすだけで変化しない。日本でガバナンス(企業統治)というとブレーキの話に終始し、おかしな話になる。アクセルを踏まない経営者にブレーキの話ばかりしても仕方がない。これを変えるには、フリマアプリのメルカリのような勢いのある会社が100社くらい出てこないと変わらないのではないか。
日本の経済規模は世界の5%、人口シェアでは1・7%に過ぎない。これを冷静に考えれば、世界に視野を広げるしかない。中国の台頭が著しいが、私はインドもポテンシャルが高いと思っている。
(構成=金山隆一・編集部)
(宮内義彦、オリックスシニア・チェアマン)
■人物略歴
みやうち・よしひこ
1935年生まれ。60年、日綿實業(現双日)入社、64年オリエント・リース(現オリックス)入社、80年に社長・グループCEOに就任、2000年会長・グループCEOなどを経て、14年6月より現職。