週刊エコノミスト OnlineBook Review

『経済学は悲しみを分かち合うために 私の原点』 評者・服部茂幸

     本書は日本を代表する財政学者の一人、神野直彦氏の自伝である。

     氏は真理を追究する知識人と真理を切り売りしているにすぎない知的技術者の区別を強調する。けれども、こうした区別自体が実用主義一点張りの今では廃れた、古きよき時代の考えと言えよう。

     第2章から第5章までは、幼少期から研究者となる前までの話である。立派な人物にしばしば見られるように、著者も母から立派な教えを授かった。それは「お金で買える物には価値がない」と「偉くなるな」である。後者は、一代で財をなした祖父が、財をなすために嫌な思いをしたことから、孫にはこうした苦労をさせたくないと考えた結果だそうである。財務省の公文書偽造など一連のスキャンダルを考えると、これも現在という時代と、自身が学び、教えた東大への批判と読めよう。

     財政学者としての氏の活躍は第5章と第6章で述べられている。財政は経済システム、政治システム、社会システムの結節点にあるということが、著者の財政社会学の基本的な立場である。そのため、危機の時代には財政も危機に陥る。実際、日本の財政は危機的状況にあると長年言われている。けれども、これも原因は日本の経済や社会の中に存在する。だから、経済や社会の危機を解決することなく、財政の危機だけを解決しようとしても…

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