歴史書の棚 文革の暗黒面を暴くオーラルヒストリー=加藤徹
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中国政府にとって「文化大革命」の暗黒史と民族対立は、今もタブーである。楊海英『「知識青年」の1968年 中国の辺境と文化大革命』(岩波書店、2000円)は、内モンゴル出身の著者が中国最大のタブーに切り込んだドキュメンタリータッチの現代史だ。
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かつて毛沢東は、権力闘争のために「文化大革命」を発動し、純真な青少年を「紅衛兵」として利用した。毛は紅衛兵の暴力を利用して政敵を一掃すると、紅衛兵をもてあました。1968年、毛沢東は、都市部の1700万人の青少年を農村部や辺境に移住させるよう指示した。いわゆる「下放」の開始である。若き日の習近平主席も下放青年の一人だった。彼は極貧の農村で汗を流した経験を美談にしたてて宣伝している。
下放青年の実態は悲惨だった。漢民族(著者は一貫して「中国人」と呼ぶ)の農山村では、現地の幹部からレイプされたり、農民とのトラブルで殺される下放青年が続出した。対照的に、モンゴル人やウイグル人、雲南省の少数民族は、下放青年をやさしく受け入れた。彼らは漢民族からしいたげられていた。だからこそ、同じく迫害されていた下放青年に同情したのである。
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週刊エコノミスト
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