話題の本 『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』『サルたちの狂宴(上・下)』『異常気象と気象ビジネス』『四苦八苦の哲学』
『アナリスト直伝 使えるファイナンス入門』 高辻成彦著 日本経済新聞出版社 1800円
企業の適正な株主価値(時価総額)はいくらか、巨額の買収によってバランスシートに計上されたのれん代(買収価格と被買収企業の純資産額の差)は妥当なのか。ビジネスマンにとり、M&Aなどの企業活動を理解する上でファイナンスの知識はますます不可欠となっている。本書ではいちよし経済研究所の証券アナリストである筆者が、平易にファイナンスの基礎理論を解説する。中学レベルの数学で理解可能だ。電卓を叩きながら例題を解いてみたい。(I)
『サルたちの狂宴(上・下)』 アントニオ・ガルシア・マルティネス著 早川書房 (上・下)各1900円
米国のベンチャー業界に身を投じた著者のシニカルな“シリコンバレー実録”。企業設立後、創業仲間との衝突、ハードな資金調達交渉、訴訟ざたなど数々の辛苦を味わう上巻。広告担当のプロダクトマネジャーとしてフェイスブックに移り、収益に貢献しようと発起するが個性の塊の経営層らに翻弄(ほんろう)され、新規プロジェクトに関して社内を二分する論争に巻き込まれる下巻。スマートな印象のIT業界が実際は人間味あふれる泥臭い社会だと分かり楽しい。(W)
『異常気象と気象ビジネス』 可児滋著 日本評論社 2300円
ゲリラ豪雨にスーパー台風など、異常気象の脅威が社会問題となっている。一方、スーパーコンピューターの進化とともに気象予報の精度が上がり、さまざまな気象データをビジネスチャンスとする動きも活発化。大雨と強風を対象とした損保会社の「天候デリバティブ」などのほか、日本気象協会ではアメダス地点の各種観測データをもとに、営農に役立つクラウド型サービス「てん蔵」を提供している。気象ビジネスの現状を知りたい人には必読の一冊である。(C)
『四苦八苦の哲学』 永江朗著 晶文社 1700円
書店のルポや読書術、哲学、京都など、多くテーマについて縦横に書いてきた著者。今年還暦を迎え、取り組んだのが「生老病死」という誰しも逃れることのできない根本問題を考えることだ。著者は西洋の哲学者の言葉を補助線としながら、正しさを追求するのではなく、哲学を「考えるための道具」としてあくまで自分のための「哲学の自習帖」と本書を位置づける。その率直な姿勢は、お手軽な答えがもらえる本よりも、読者に深く刺さるのではないだろうか。(K)