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資源・エネルギー 福島後の未来をつくる

分散型電源拡充にかじを切れ 北海道ブラックアウトの教訓=橘川武郎 福島後の未来をつくる/78

北海道における再生可能エネルギー導入のポテンシャル
北海道における再生可能エネルギー導入のポテンシャル

 9月6日に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震によって、北海道全域が停電する事態に陥った。この全域停電の原因が、北海道電力の電源の苫東厚真(とまとうあつま)石炭火力発電所への一極集中にあることは、誰の目にも明らかである。地震発生直前の北海道電力管内の需要規模は308万7000キロワットであったが、じつにその48%に当たる149万2000キロワットの電力を、フル稼働に近い苫東厚真発電所(165万キロワット)にたよっていた。

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 北海道電力の電源が苫東厚真発電所に一極集中するようになったのは、東京電力・福島第1原子力発電所の事故の影響を受けて、2012年5月に泊原子力発電所が運転を停止して以降のことである。北海道電力は、電源の一極集中を解消するため、泊原発の再稼働、液化天然ガス(LNG)を燃料とする石狩湾新港火力発電所1号機(出力56万9400キロワット)の建設、北海道と本州とを結ぶ北本連系設備の容量を90万キロワットとする増強などに取り組んできたが、今回の地震には間に合わなかった。石狩湾新港LNG火力発電所と北本連系設備増強分の運転開始はそれぞれ来年の2月と3月の予定であるし、泊原発の再稼働の見通しは現時点でたっていないのである。

北海道は再生可能エネルギーの宝庫(幌延町の風力発電所)
北海道は再生可能エネルギーの宝庫(幌延町の風力発電所)

ふう集中型依存がはらむ危険

 北海道電力は、一連の電源一極集中解消策のうち、泊原発の再稼働にとくに力を入れている。そもそも同社は、福島原発事故以前の時期には、泊原子力発電所と苫東厚真火力発電所という大型集中電源の「二極体制」で、電力供給を行っていた。泊再稼働に全力をあげる現在の北海道電力の姿は、この「二極体制」への回帰とみなすことができる。

 ここで問題とすべきは、大型集中電源の「二極体制」の再構築をめざす北海道電力の方針が、今回の全域停電から得られる教訓に照らして適切なものなのかという点である。この問いに対する答えは、否定的なものにならざるをえない。

 北海道ブラックアウトがもたらした教訓は、「大型電源への一極集中が危険だ」ということだけにとどまらない。正確に言えば、「大型電源のみに依存するのは危険だ」ということが、真の教訓なのだ。

 この点を理解するうえでは、原発の不安定性を認識することが重要な意味をもつ。それへの認識不足こそが、北海道電力の経営陣がかかえる大きな問題点だと言える。

 高浜原発3・4号機と大飯原発3・4号機の再稼働をはたした関西電力は、電気料金を値下げし、それを武器にして、中部電力管内や中国電力管内で需要家獲得を強力に進めている。この事実からわかるように、既存の原発の再稼働は、発電コストを引き下げ、それを実現した電力会社の競争力を向上させる。

 福島原発事故後の2度の料金値上げによって、電力小売り全面自由化後激化した市場競争で苦戦を余儀なくされている北海道電力にとっては、発電コスト低減が至上命題である。したがって、当面、石炭を燃料とするうえ大容量であるため発電コストが安い苫東厚真火力発電所への依存を強めるとともに、焦眉(しょうび)の課題として泊原発の再稼働に全力をあげざるをえない。北海道電力の経営陣はこのように考えているわけだが、そこには一つの落とし穴がある。

 それは、福島原発事故が白日のもとにさらけ出したように、原発はきわめて不安定な電源であるという落とし穴である。

 原発は、自社が問題を起こさなくても、他社の事故やトラブル、他国での事故やトラブルで、すぐに全面停止するおそれがある。現実に、北海道電力は、その原発の不安定性のゆえに、泊原発の運転停止に追い込まれ、「苫東厚真一極集中」を余儀なくされている。同社の経営陣が今なすべきことは、大型集中電源の「二極体制」の再構築ではなく、大規模集中電源への依存そのものの縮小でなければならない。

分散型電源の宝庫

 集中型電源の対極に位置するのは分散型電源である。福島原発事故が残した最大の教訓は、「集中型電源だけでなく、分散型電源をもあわせもつことが極めて重要だ」というものだ。

 分散型電源の中心となるのは、再生可能エネルギーによる発電である。北海道は、その再エネ発電の宝庫だと言える。昨年11月の北海道経済部の資料から抜粋した表は、そのことを如実に物語っている。

 この表が示すように、再生可能エネルギー導入ポテンシャルの点で北海道は、風力発電と中小水力発電では全国1位、住宅用を除く太陽光発電は全国2位、地熱発電については全国3位を、それぞれ占める。とくに、陸上風力発電の導入ポテンシャル量は、全国の63%に達するのだ。表にはないが、北海道では、バイオマス発電のポテンシャルも大きい。北海道経済部の同じ資料によれば、全国で79市町村が指定されているバイオマス産業都市のうち31市町村は、道内に所在する。

 このように北海道は、再エネ発電の宝庫、つまり分散型電源の宝庫でもあるのだ。にもかかわらず北海道電力は、分散型電源の拡充について熱心に取り組んでいるようには見えない。

 分散型電源の拡充に対する消極的な姿勢は、北海道電力だけに限られたものではない。これまで「10電力体制」を構成してきた全国各地の大電力会社のいずれもが、集中型電源への依存を続けており、集中型と分散型をあわせもつ電源構成への移行に力を入れていない。

 これらのうち、もともと原発をもたない沖縄電力を除く9社は、いまだに原発を主力電源として位置づけている。しかし、原発はいつ何時停止するかもしれない。何らかの事情で原発がストップしたとしても他の集中型電源だけで電力供給は一応確保されているかもしれないが、その頼みの綱の集中型電源が自然災害などで運転を停止した場合には、供給区域でブラックアウトが生じかねない。これが今回、北海道で現実化した「今そこにある危機」であり、それを回避するために電力各社は、集中型と分散型をあわせもつ電源構成への移行に向けて、思い切りかじを切らなければならないのである。

 今年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画は、2050年に向けて再生可能エネルギーを主力電源化する新方針を打ち出した。日本の電力会社は、電源構成に対する考え方を根本的に見直すべき時期に来ている。

(橘川武郎・東京理科大学大学院経営学研究科教授)


 ■人物略歴

きっかわ・たけお

 1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東京大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

(橘川武郎・東京理科大学大学院経営学研究科教授)

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