教養・歴史特集

幸福の街、ウィーン(動画付き) 伝統と革新の融合=小島清利 古都の挑戦

     ウィーンはオーストリアの東部、ドナウ川のほとりに位置するオーストリアの首都。面積は東京23区よりも小さいが、かつては欧州の政治・文化の中心地であり、旧市街は世界遺産に指定されている。特集:古都の挑戦

    シェーンブルン宮殿はウィーン市民の憩いの場だ
    シェーンブルン宮殿はウィーン市民の憩いの場だ

     13世紀からハプスブルク家が支配し、政治と宮廷文化の中心地として栄えた。オーストリア皇太子暗殺が引き金で勃発した第一次世界大戦の1918年にハプスブルク家の支配が終焉(しゅうえん)し、オーストリア共和国が誕生した。

     そのウィーン市の観光開発における新たな長期戦略のテーマは「グローバル」「スマート」「プレミアム」だ。豊かな文化、持続可能性、先進的な都市テクノロジー、便利でコンパクトな交通システムなどを看板に、観光都市としても確固たる地位を目指す。ウィーン市観光局のノルベルト・ケットナー局長は「スマートでエレガントな都市として、今後100年も持続的な発展を続ける」と話す。

    最も幸せな都市

     オーストリアの首都、ウィーンはQOL(クオリティー・オブ・ライフ)が最も高い都市として有名だ。QOLは幸せを感じる指標で、政治、経済、文化、医療、教育、公共サービス、移動手段、レジャー施設、住環境、自然環境など総合的な側面から生活を通して「幸福度」を判定する。スマートな都市を目指すウィーン市にとっては「幸福都市」は願ってもない「称号」だ。

    ウィーン観光客数の推移
    ウィーン観光客数の推移

     その幸せの都市にあやかろうと、ウィーンを訪れる観光客も増えている。ウィーン市の観光統計によると、市内の宿泊数は2007年の970万泊から17年には1550万泊に増加。訪問客数は06年の393万人から16年の688万人に増えている(図)。

     最も人気の高い観光施設のひとつ、シェーンブルン宮殿の庭園はマリア・テレジアが1779年に一般開放し、ウィーン市民の憩いの場として古くから親しまれてきた。

     宮廷は社交界や文化活動の中心で、シェーンブルン宮殿でもにぎやかなパーティーや特別なイベントが多く開かれた。「6歳のモーツアルトがマリア・テレジアのために演奏を披露し、演奏後にはマリア・テレジアの膝に飛び乗り、頬にキスをした」などの逸話も記されている。

    3頭のパンダは動物園の人気者だ
    3頭のパンダは動物園の人気者だ

     シェーンブルン宮殿には動物園も併設されており、動物たちの愛くるしい姿も楽しむことができる。3頭のパンダが一番人気で、「ヤンヤン(00年生まれ)」が03年に中国からやってきて、16年8月7日に双子の「フーフェン(メス)」「フーバン(オス)」を生んだ。人工飼育に頼らずに双子を育てた初めてのケースという。

    美声響かす「ひげの美女」

     ウィーンは「音楽の都」としても知られ、偉大な音楽家たちが移り住んだ。ウィーン古典派を代表するハイドンや、モーツアルト、ベートーベンなどが有名。そのクラシック音楽にゆかりが深いウィーンに、新しい音楽の風を吹き込むアーティストが誕生している。強烈な個性を放ち続ける実力派歌手、コンチータ・ウルストさんだ。

    世界的な歌手、コンチータは自由の街の象徴でもある
    世界的な歌手、コンチータは自由の街の象徴でもある

     オーストリア出身のコンチータさんは、これまでセリーヌ・ディオンやABBAなどを輩出した由緒ある音楽コンテスト「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」で優勝した経歴を持つ。

    「ひげの美女」の異名を持つコンチータさんは、圧倒的な歌唱力と先鋭的なビジュアルで世界中にファンを持つ。また、LGBT(性的少数者)コミュニティーのグローバル大使も務めていて、15年に来日した際は、歌番組で美声を披露するだけでなく、同性パートナーシップ条例が可決された渋谷区役所を訪問するなど、同性愛者の権利向上を支援している。

     コンチータさんは「音楽の街・ウィーンで素晴らしい音楽を吸収し、自由で豊かな文化・風土で育ったから、今の自分がある。音楽の実力が世界に認められることで、LGBTへの理解も深まっていけばなおうれしい」と話す。

    木造の高層建築ビル

     環境に優しく、持続可能な街づくりを目指すウィーンでは、自由でオープンな発想に基づく民間ビジネスが生まれている。多様性を許容するライフスタイルを反映した機能やデザイン性の高い製品がウィーンの強みだ。

     19年に完成予定の木造高層建築ビル「HoHo Wien」は24階建ての木造主体のビルでホテルやオフィス、アパート、ショッピングモールのある複合施設だ。地元の不動産会社ギュンター・ケアブラーによると、木造を選んだ理由は環境への配慮で、同様の構造のコンクリートビルに比べて、二酸化炭素(CO2)の排出量を2800トン削減することが可能という。

     15年の「オーストリア建築技術機構(OIB)」の指針により、木造建築は6階までの規制があり、階段やエレベーター周辺はコンクリートを使用することが義務付けられている。火事などに対する防災措置が重視されているが、「HoHo」は規定を順守する証明書を提出し、例外が適用されたという。

    自家発電の自転車などベンチャー企業のアイデアも斬新
    自家発電の自転車などベンチャー企業のアイデアも斬新

     ウィーンは交通機関も発達し、地下鉄、市電、バス、快速電車などを乗り継ぎ、観光地巡りに便利だ。さらに、コンパクトな街なので、自転車を利用して街中を移動する姿も多い。そんなウィーンで、コンパクトに畳めて、自家発電機能も搭載された「VELLO BIKE+」が話題だ。

     自家発電機能は、自転車のペダルをこいだり、ブレーキをかけるときに発生する電気エネルギーを集め、リチウムイオンバッテリーを充電する仕組み。バッテリーをコンセントにつないで充電しなくて済む。

     コンパクトに畳めばスーツケースにも収まる。スマートフォンの専用アプリがあり、速度やモーター、チャージなどの状態をチェックしたり、走行ルートをチェックできる。欧州を中心に海外展開を狙っている。

    伝統工芸にも新風

     ウィーンの伝統工芸は、気品ある照明器具や美しい食器、エレガントなテキスタイル、高級銀器などが有名だ。手作りの良さを大切にしながら、伝統技術を次世代に引き継いでいる。

     バカロヴィッツ・リヒトデザインは、手作りの高級シャンデリアなどを手がける照明器具のデザイン工房だ。バカロヴィツ家による家族経営で技術を伝承しており、欧州だけでなく、中東やアジアなど世界中の富裕層に顧客を広げている。

     また、動物の角を使ったアクセサリーを展開するユニークな工房もある。ペッツは、シカなどの角を金ノコやドリルを使って加工し、ネックレスやブレスレット、バングル、イヤリングなどに仕上げる。

    日本の竹かごや籐まくらを思わせるペッツのアクセサリー
    日本の竹かごや籐まくらを思わせるペッツのアクセサリー

     ペッツのアクセサリーは、優れたデザイン性と機能性を実現する加工技術が強みだ。日本の伝統的なデザインを参考にし、竹かごや籐(とう)まくらを思わせる飾りを開発。有名ブランドのカバンに採用されている。

     ウィーンの観光が世界的に注目を集める中、日本からの観光客も再び増え始める気配だ。オーストリア航空は18年5月から、成田─ウィーン線の運航を週5便で再開した。10月末でいったん終了したが、19年3月から週6便で再開し、4月30日からはデーリー運航になる。また、ANA(全日本空輸)も19年2月から羽田─ウィーン線を新規開設する。

     来年は日本とオーストリアの修好通商航海条約締結150周年を迎える。日・EU(欧州連合)間における経済連携協定への署名を契機に、自由貿易が促進されることでヒト・モノの交流がより一層拡大していくことが見込まれている。

     一方で、シリアなどからの難民、移民の増加をきっかけに欧州で極右政権の誕生が相次ぎ、オーストリアでも17年12月、極右・自由党が連立政権入りした新政権が発足した。ジェトロ・ウィーン事務所は「国民党と自由党の連立政権は右寄りと言われており、難民や移民の流入を厳格にする政策を打ち出しているが、ウィーン市(州)自体は、伝統的に社民党の地盤で、ここ数年は緑の党を連立パートナーとしており、外国人に対しては寛容な政策を取っている」と分析する。

     ただ、国全体では17年10月から施行された外国人滞在法改正により、滞在許可にともなう条件が厳しくなり、難民や移民だけでなく、EU域外からの一般の駐在員や留学生にとって滞在許可が取りにくくなっているという。多様性を積極的に受け入れることで魅力を高め、多くの人を引き付けるオーストリアの首都、ウィーンが分岐点に立っている。

    (小島清利・編集部)

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