ブレイディみかこの読書日記 故郷で取材する著者 ためらいを経て確信へ
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私は自分の担当編集者が薦める本を信用している。私が書く文章を知り抜いた編集者が送ってくれる本に外れはない。梁鴻著『中国はここにある 貧しき人々のむれ』(みすず書房、3600円)がまさにそんな本で、今年一番の収穫だった。
大学教授として都会で暮らす著者は、故郷である貧しい農村に約5カ月間滞在し、自分の家族やかつての友人、知人などに、社会学的な聞き取り調査を行う。そして「農村調査というより、帰郷者の故郷への再入場であり、啓蒙者の視点ではなく、生命のはじめに立ち返り」書いたのが本書だ。都会の知識人が感じた困惑やジレンマも正直に織り込まれているが、著者は農村の人々の生に畏敬(いけい)にも似た感情を抱く。
「かなり長いあいだ、私は自分の仕事に疑問を抱いていた。こんな虚構の生活は、現実と、大地と、魂と、何の関わりもないのではないか」と書く著者は、農村のリアルを「悲劇」「苦痛」と呼ぶのはインタビュアーの目線であり、都会から来た観察者の視線だと書く。そこに住む人々は毎日泣き叫ぶわけにはいかない。彼らはすべてを受容し、センチメンタルな弱さを否定し、実利的な強さを身に着けてしぶとく生き抜く。
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週刊エコノミスト
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