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週刊エコノミスト Online 世界経済総予測2019

「GAFA」分割の時期到来 スコット・ギャロウェイ 米ニューヨーク大学教授

ITの巨人たちに逆風が吹いている(Bloomberg)
ITの巨人たちに逆風が吹いている(Bloomberg)

市場の“競争”取り戻す必要

 ITの巨人「GAFA(ガーファ)(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)」──。その負の側面の顕在化を指摘するギャロウェイ教授に話を聞いた。

(聞き手=岩田太郎・在米ジャーナリスト)

スコット・ギャロウェイ 米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授(撮影=岩田太郎)
スコット・ギャロウェイ 米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授(撮影=岩田太郎)

── 2018年3月にフェイスブックからの大量の個人情報流出が発覚したことをきっかけに、世界中の政府がテクノロジー大手の規制に乗り出している。

■16年の米大統領選でトランプ陣営が利用していたデータ分析企業が、フェイスブックの膨大な数の個人プロフィールから、ユーザーの同意を得ることなく個人情報を取得していたわけだが、フェイスブックのユーザーは「うそをつかれた」「利用された」として非常に憤っている。

 欧州連合(EU)では、個人情報保護の規制を強化する「一般データ保護規則(GDPR)」が18年5月から施行された。ところが、GAFAをはじめとする大手企業は、GDPRで悪影響を受けるどころか、逆に地位を固めることができた。

── どういうことか。

■GDPRは中規模以下のテクノロジー企業にとっては死活問題だが、大手企業は規制に対処する経営資源がある。GDPRは奇妙にもこの4社を助けているわけだ。また、カナダや英国や日本ではより厳格な規制が議論されているが、米国においてはフェイスブックは同国で誕生した「土地っ子」であり、同情をもって扱われている面もある。フェイスブックが無傷で済むとは思えないが、現在の経営陣が退陣して信頼できるチームと入れ替われば、株主にとってはよい結末になるかもしれない。

── 改革は可能か。

■株価の3分の1を失い、株主に損害を与えたフェイスブックにとって経営改革は不可欠だ。同社の議決権の60%を握っているマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は取締役会を入れ替えることができるので、同氏の解任は不可能との見方もある。だが、同氏がそのような行動に出れば、規制当局や米議会、株主側の弁護士の介入は避けられず、結局は解任を受容せざるを得ないだろう。ほかの取締役はザッカーバーグ氏に解雇されるリスクを冒しても、正しいことをしなければならない。

新興企業の資金調達妨げる

── GAFAの株価が下落している。成長に陰りが見え始めたのか。

■4社はそれぞれ状況が異なり、ひとからげにはできない。例えば、アマゾンは電子商取引(Eコマース)で独占的な地位を築き、収益率の高いクラウド事業でもトップシェアであるのに加え、コンテンツ内製に力を入れるなどメディアとして3年後には世界最大の企業になっている可能性がある。

 一方、フェイスブックは広告販売が年率25~30%成長を記録するなど強さを見せているが、GAFAの中では経営基盤が最も脆弱(ぜいじゃく)なうえに、個人情報流出事件で米議会から糾弾され、株価も急落している。こうしてみると、アマゾンがダントツの1位、グーグルとアップルがタイの2位、フェイスブックは最下位だ。

 だが、GAFAがこのままの状態で進めば、いずれ4社ともその地位を失うだろう。

── それはなぜか。

■売上高合計がドイツの国内総生産(GDP)に匹敵するGAFAは、「ネット検索」「電子商取引」「ソーシャルメディア」「モバイル端末」という米国経済で最も強い分野において市場を独占している。このため、競争環境が生まれず、新興企業の資金調達を困難にしているからだ。例えば、グーグルは検索エンジンで93%のシェアを独占している。

── 対応策はあるか。

■市場から競争が消えたいま、その原因を作っているGAFAを分割すべき時が到来したと考える。過去には、米国の通信市場を独占していたAT&Tが1980年代に分割された結果、市場に競争が戻り、業界が活性化した例もある。

 もし、アマゾンがクラウド部門「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」を分社化すれば、AWSは世界で時価総額が最も大きい企業の10位以内に入る。アマゾン本体とAWSを合わせた時価総額が、分割前のアマゾン単体を上回る可能性も高く、株主の利益も増える。同じ理由で、フェイスブックは傘下にある人気の写真ソーシャルメディア「インスタグラム」を分社化すべきだ。

少数が富を独占する不合理

── GAFAは雇用面で製造業に見劣りする。

■そのとおりだ。「GAFAをはじめとするテクノロジー企業が大量の雇用を生み出している」というのは間違っている。GAFAは富を生み出すエンジンだが、極めて少数の者が独占している。それに対して、過去の企業は何百万、何千万の雇用を生み出していたのだ。富を生み出すという点において過去も現在も同じだが、今はほんのわずかな人たちに富が集中する仕組みになっている。

雇用は生まないが、富を膨らませるフェイスブック
雇用は生まないが、富を膨らませるフェイスブック

 フェイスブックの時価総額は米自動車産業全体よりも大きいが、自動車産業が300万人を雇用しているのに比べ、フェイスブックの従業員数は比較にならないほど少ない(図)。アマゾンは全世界で約60万人の従業員を抱えるが、ほとんどは倉庫労働者で給料も決して高くない。最近やっと米国での最低時給が15ドルに引き上げられたばかりだ。

 雇用はGAFAだけでなく、新興のテクノロジー企業に共通の課題だ。ライドシェア大手ウーバーのドライバーは時給が10ドル50セントにしかならない。これに対し、ゼネラル・モーターズは、70年代で25万人の社員を抱え、新人工員の時給は25ドルだった。インフレ調整後の価値では、当時のGMの新人工員が、現在のウーバーの運転手の5倍稼いでいた。

── 「ポストGAFA」は。

■まだ分からない。ただ、動画ストリーミング配信のネットフリックスは、10代の若者に支持されている点で有望だ。音楽ストリーミングのスポティファイにも可能性がある。メディア大手のディズニーは非常に優良なコンテンツを持っており、動画配信サービスでも注目だ。

 こうした新興勢力がGAFAに取って代わるかもしれない。ただ、これら企業の成長を待つよりは、GAFAを分割した方が、より大きな経済的な価値が生まれるだろう。


 ■人物略歴

Scott Galloway

 1964年11月3日生まれ。米ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。経営学修士(MBA)コースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。起業家として九つの会社を設立。2012年「世界最高のビジネススクール教授50人に選出」。著書に『The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook, and Google』(邦訳『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』)。

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