米国株バブルの終焉 世界景気の失速必至=大堀達也/米江貴史/岡田英
不気味な下落基調の中で、世界株式市場の2018年が暮れようとしている。
12月18日時点の各国・地域の主要株価指数を見ると、いずれも18年中に付けた高値に対して大きく値を下げている(図1)。しかも、高値や、高値後の下落から回復した「戻り高値」の時期が9月下旬~12月に集中していた。秋以降の高値や戻り高値の時期から、わずか1、2カ月足らずの間に急落。とりわけ日米欧の3極でその傾向が顕著だ(図2)。
「IT株頼み」の限界
18年後半からリーマン・ショック前の水準に迫る上昇を続けていた米ニューヨーク・ダウ平均株価(NYダウ)は、10月10日に前日比831ドル安の2万5598ドルに突然急落。翌日には日経平均も同915円安の2万2590円まで売り込まれるなど、ダウ暴落の衝撃は各国市場に波及した。
10月の日経平均の下落幅は2199円(9%)安と、リーマン・ショック直後の08年10月(2682円安)以来10年ぶりの大崩れとなった。
直近で見れば、NYダウは10月3日に付けた高値から3235ドル(12・1%)安、日経平均株価は10月2日の高値から3155円(13%)安、英FTSE100指数は9月27日の戻り高値から794ポイント(10・5%)安に沈んでいる。
「独り勝ち」で18年の世界経済を牽引(けんいん)してきた米国経済がつまずけば、世界も無事では済まない。
主要株価指数下落の引き金となったのが、米長期金利の上昇だ。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は10月3日、「長期金利の水準は中立金利まで程遠い」と発言。「まだまだ利上げは続く」との見方から米長期金利(米10年国債利回り)は3・2%と7年5カ月ぶりの高水準まで上昇した。金利が上がれば高リスクの株式投資よりも低リスクの預貯金や債券の人気が高まり、株への投資価値が相対的に低下する。
それまで、「GAFA(ガーファ)」(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)にマイクロソフト、ネット動画大手のネットフリックス、半導体大手エヌビディアを加えた「FANGMAN(ファングマン)」と呼ばれるIT大手7社が、米株式市場を牽引していた。米上場企業505社を構成銘柄とする株価指数S&P500の構成銘柄だが、相場研究家の市岡繁男氏は「同指数から7社を抜いた498社で指数化してみると、いかに7社が米株価を底上げしてきたかが分かる」(図3)と言う。
米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が考案したバブルの度合いを測る「バフェット指数」を見ると、9月末の同指数は、1952年以降では2000年のITバブル期の水準(172%)を上回る過去最高値(173%)を付けていた(図4)。同指数は「株式市場の時価総額÷国内総生産(GDP)×100」で算出する。経済が堅調な国では株価上昇がGDPの成長と比例するという前提で、目安の100%より大きくなるほど、より割高と考える。バフェット指数を見る限り米株は明らかなバブルを示しており、金利上昇をきっかけに、いつ調整が起きてもおかしくはない状態だった。これまで市場を牽引してきた主役の失速で、市場心理が大きく“不安”に傾いたままなのだ。
2年連続で下方修正
米中の経済対立が実体経済に与える影響が懸念されている。中国から米国への直接投資が急減している。また、中国国内でも輸出関連ビジネスの影響が出始めている。「米中貿易戦争による中国経済減速の影響は世界経済に波及する」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)懸念もある。
好調な欧州経済にも変調の兆しが出だした。特に、欧州経済を牽引するドイツは、輸出で潤っているだけに、米中対立の影響を色濃く受ける。さらに、米金利の上昇とそれに伴うドル高は、新興国からの資本逃避を促す恐れもあり、新興国経済にもマイナス要因だ。世界経済はさまざまな不確実性によって停滞が長期化する可能性が高まっている。
市場は、現在、今回の世界同時株安が一時的な調整なのか、あるいは市場の牽引役が入れ替わる兆候なのかを見極めようとしている。
国際通貨基金(IMF)は10月9日公表した世界経済見通しで、18年、19年の世界GDPの実質成長率を7月時点の3.9%から0.2%ポイント引き下げ3.7%とした。
経済協力開発機構(OECD)も11月21日発表した見通しで9月時点の3.7%から0.2%ポイント引き下げ3.5%とした。両者とも米中の貿易摩擦や米国の金利引き上げに伴う新興国からの資金逃避などを経済減速の理由に挙げている。
景気後退リスクがくすぶるなか、OECDは「世界経済の先行きには陰りが見え始めている」と警鐘を鳴らしている。
(大堀達也/米江貴史/岡田英・編集部)