経済・企業2019年の経営者

素材の力でシューズ復活を目指す 伊藤守=アキレス社長 編集長インタビュー/937

    独自のゴム素材を活用したボートは、米国をはじめ海外でも知られている
    独自のゴム素材を活用したボートは、米国をはじめ海外でも知られている

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── アキレスは靴の会社というイメージが強いと思います。シューズ事業は、どんな状況でしょうか。

    伊藤 苦戦していて、3年間営業赤字が続いています。二十数年前には、当社の売り上げの3分の1、利益の半分をシューズ事業が占めていた時期がありましたが、子ども靴から大きく転換できませんでした。

     一時期は、海外ブランドメーカーの革靴の国内生産・国内販売を手がけました。しかし、海外メーカーが独自路線をとり、たもとを分かってからは売り上げが減少していきました。また、靴販売の大型店や、ネット通販の力が強くなり、地域の商店街の小売店が減っていきました。

     これらのいろいろな要素が絡み合って、シューズ事業が苦戦するようになりました。

    ── 子ども向けの「瞬足」は速く走れる靴ということで、ずいぶんヒットしました。

    伊藤 2003年に発売した瞬足はピーク時に年間650万足を売っていましたが、ヒットに安住してしまった部分があります。開発や販売を瞬足に集中させてしまったことも反省点です。今は年間400万足で落ち着いています。運動会シーズンにはよく売れますし、今期中に累計販売が7000万足に達します。

     また、今は健康な足をつくる「足育活動」も進めています。扁平(へんぺい)足や浮き指など、子どもの足の障害は、足に合っていない靴を履かされていることが一因です。子どもが一日で一番長い時間履いている靴は小学校の上履きです。そこで、子どもの健康に配慮した上履きとして、「瞬足アットスクール」を18年から発売しています。

    ── 最近は大人向けの靴にもかなり力を入れていますね。

    伊藤 子ども靴の価格帯は、4000円を超えると高すぎて売れ行きが鈍るというハードルがあります。そこで商品単価が高い大人靴にシフトしています。購買力があって活動的な中高年層のための靴が必要だろうということで、力を入れています。08年発売の「アキレス・ソルボ」は、ソールにウレタンを採用し、非常に履きやすい靴になっていて、毎日のウオーキングなどに適しています。

    ── 評判や売れ行きは。

    伊藤 今は年間30万足の販売で、前年比5~6%の伸びを続けています。人口が減って、シューズ事業は衰退していくと見られている一方で、人々の行動は多様化し、靴を履くシーンは変わってきています。シーンに合う靴をそのつど選択するため、大人靴が伸びていると思います。

     当社の最大の課題はシューズ事業の復活です。そのためには自分たちの素材の力を生かすべきだと考えています。例えば、新しい材料を採用して、足への負担が少ない「メディフォーム」というランニングシューズを作っています。実際に海外のマラソンのトップ選手が、足を痛めないように練習でメディフォームを履いています。

    素材配合技術が強み

    ── シューズ以外の残りの8割以上の売り上げは素材関連事業です。どんな製品を作っていますか。

    伊藤 プラスチック事業と産業資材事業は売り上げが伸びています。特に今後成長が期待できるのは産業資材のウレタンです。マットレスなどの寝具関係、雑貨関係が好調に推移しています。

    ── ウレタン事業の強みはどこにあるのですか。

    伊藤 一番は対応力で、取引先の要望に応じて多種多様な製品を提供できます。また、加工拠点が、北海道の美唄、山形、栃木、滋賀、九州の飯塚と全国5カ所にあり、地域ごとの要求に応じた加工をしています。例えば、明太子の下に敷くウレタンシートは九州で作っていますし、さくらんぼの下に敷くウレタンシートは山形で作っています。また寝具は大都市に近い拠点で作っています。

    ── ウレタンにもさまざまな種類があると。

    伊藤 硬さや反発性、衝撃吸収などの特性が異なる製品を多くそろえています。寝具向けは低反発性ですが、靴用のウレタンソールは高反発性でありながら衝撃を吸収する。そういった特徴を実現する配合技術が当社の強みです。

    ── それ以外の素材は。

    伊藤 プラスチック事業に含まれますが、塩化ビニール製レザーを用いた車両用の座席があります。非常に軟らかく、風合いが良い素材になっています。ほかには新幹線のグランクラスの座席など鉄道車両に使われていますし、現在は航空機の座席向けに注力しています。

    ── 優れた製品がたくさんあるようですが、問題はその売り方ですね。

    伊藤 当社は営業が下手だと思っています。今までは商社や問屋に任せきりで、営業力がそこに限定されていました。もっとPRしていかなければいけないと思います。

    ── 何か取り組みはありますか。

    伊藤 当社はこれまで縦割りの組織で事業を展開してきました。A事業とB事業を掛け合わせることが非常に少なかった。今後は組織横断的な開発・営業を進めていきます。

     例えば、電子部品では、導電性ポリマーを使ったシート材などを手がけていますが、今まで自動車メーカーとは座席などを手がけるウレタン事業部しか付き合いがありませんでした。しかし商談の際に、導電性シートの話題を持ち出すと、自動車メーカーが興味を示し、導電性シートを採用した共同開発が進んでいます。このようにチームが合わさって新しい製品の開発を進めるようになっています。

    (構成=村田晋一郎・編集部)

    横顔

    Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

    A 入社後は営業でしたが、30歳からは研究開発部門に進み、導電性ポリマーの研究をしていました。

    Q 「好きな本」は

    A 山形出身なので、同郷の藤沢周平さんの作品をよく読みます。中でも『漆の実のみのる国』が好きです。

    Q 休日の過ごし方

    A 美術館巡りをすることが多いです。


     ■人物略歴

    いとう・まもる

     1954年生まれ、山形県立新庄北高校卒業、山形大学工学部卒業、東京工業大学大学院修士課程修了。79年興国化学工業(現アキレス)入社、取締役研究開発本部長、専務を経て、2012年6月から現職。山形県出身、64歳。


    事業内容:シューズ、プラスチック、産業資材事業

    本社所在地:東京都新宿区

    設立:1947年5月

    資本金:146億4000万円(2018年3月末現在)

    従業員数:1322人(18年3月末現在)

    業績(18年3月期、連結)

    売上高:879億1000万円

    営業利益:23億4300万円

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