景気腰折れ、「消費増税犯人説」を疑え
過去2回の消費税率の引き上げは、不況をもたらした「主犯」と扱われることが多いが、景気動向指数のコンポジット・インデックス(CI、景気変動の大きさや量感などの水準を示す)の一致指数をみると、消費税率の引き上げが景気の腰折れの原因であるとは断定できない。
消費税率引き上げ前後には駆け込み需要とその反動がある。1回目の税率引き上げは1997年4月だが、前後の2月と5月の一致指数(2015年=100)を比べると、95・7と96・0で、大きな変化はない。一致指数が変化したのは9月からで、98年末には83・5まで下落してしまう。この落ち込みの原因は、97年7月以降のアジア通貨危機と、日本の金融危機の影響を受けたと解釈したほうが理にかなう。
14年4月に行われた2回目の税率引き上げをみると、直前の2月の一致指数は103・1で、5月に100・9とわずかに低下した後、15年11月まで約20カ月間、99から101程度の間を推移することになる。勢いに欠ける動きではあるが、不況突入とまでは言えない。
現に14年は景気循環の転換点とは判定されていない。むしろ、13年の1年間の一致指数の平均が97・8だから、14年の景気は前年より若干改善したものの基本的に横ばいだったと評価するのが適当だろう。そして、この「横ばい」の動きは、その水準を多少上下させつつも、現在の足元まで続いている。
一致指数だけで判断するのは性急だが、本質的な疑問は「14年の消費税率引き上げが不況をもたらしたか否か」ではなく、「アベノミクスによる政策総動員にもかかわらず、なぜ過去5年間の景気がパッとしなかったのか」である。この疑問に対しては、海外経済の動向や国内実質賃金の伸び悩み、企業の投資意欲低下など、多くの回答が提示されている。
10月に予定されている3回目の税率引き上げ後、景気はどうなるのか。過去2回の経験に立てば、引き上げが不況をもたらすとは思われない。さまざまな負担緩和措置を考慮すればなおさらだ。ただ今年の景気は、「市場のボラティリティー(変動性)が高まり、投資家がリスク回避に傾く」「米中間の貿易交渉の妥結の有無にかかわらず、長期的な対立を見越したサプライチェーン再構築の動きやセンシティブな技術供与の見直しが、中国経済の減速に拍車をかける」「中東を中心に地政学的なリスクが高まり、欧州が不安定化する」などの要因から減速する恐れがある。
安倍晋三首相が「リーマン・ショック級の危機でない限り消費税率を引き上げる」と宣言していることは正しい判断だが、景気減速に直面した国民の間に消費増税犯人説が再浮上する可能性がある。これが10%超への次の税率引き上げへの判断に大きく影響を与えることは避けたいところだ。
(転石)