安倍政権に景気後退への備えはあるか
内閣府が発表する景気動向指数のCI一致指数が、今年1月まで3カ月連続して低下し、景気に陰りが見えてきた。2016年の伊勢志摩サミット前、リーマン・ショック(08年)並みの危機到来を叫んだ安倍晋三首相だが、今年6月に大阪市で予定するG20(主要20カ国)サミットを前にして景気後退は本物になるかもしれない。
日本は平成の30年間で、かつてのような経済大国ではなくなった。日本が米国発のリーマン・ショックで深刻な打撃を受けたことは、経済大国としての自律性の喪失や、世界経済に依存する体質への変化を象徴していた。日本経済は、世界経済のリスクに対し、より脆弱(ぜいじゃく)になっていることを自覚すべきだ。
世界経済が不況になれば、日本の円は「安全資産」として円高になり、日本経済は世界経済の落ち込みと円高というダブルパンチを受けてきた。円が安全資産として買われる理由として、日本が世界最大の対外債権国であることが挙げられる。だが、それだけでなく、優秀な実務家としての日本の財政・金融当局の手腕や、当局への市場の信頼もあっただろう。
日本は1990年代後半の金融危機も、数々の未曽有の自然災害でも、その影響が世界経済に波及することを防いできた。その背景には、市場や金融機関の流動性に精通する日銀など金融当局の手腕と、民間金融部門との一体感があった。米国発のリーマン・ショックが世界に波及したことや、中国発の金融危機が世界経済を混乱させてきたのとは対照的だ。
しかし、官邸主導の人事がこうした優秀な遺伝子を殺し、金融緩和頼みのリフレ派の政策が財政規律への信頼を揺るがしている。日銀の量的緩和による低金利誘導や、金融庁が金融機関に慫慂(しょうよう)したリスクテークは、結局は投資用不動産向け融資やアパートローンの過度な増加を招いてしまった。日銀のマイナス金利の導入も、金融システムを弱体化させている。
実務レベルでは、日本の金融当局に対する国際金融市場の信頼は今のところ高い。しかし、金融システム面でのリスクは景気後退で露呈しかねず、財政再建は先送りを繰り返すばかりで、日本の経済運営に対していつ不信が高まってもおかしくない。さらに、統計不正問題は、経済統計への信頼を失っただけでなく、官僚組織の劣化も白日の下にさらしている。
第2次安倍政権が発足した12年12月は、景気が拡大に転じたわずか1カ月後だった。以後、幾度かのマイナス成長はあったものの、安倍政権は本格的な景気後退を経験していない。危機は突然やって来る。これも平成時代の教訓だ。「想定外」として準備を怠ることは許されない。
(歩)