「現代金融理論」を実践する危うい日本
トランプ政権下での大型減税や財政出動の結果、米国の財政赤字は拡大傾向が続いている。それは米国債の発行で賄われ、米国債の発行残高は過去最高に達した。米国債の発行残高上限を定めた「債務上限」の適用除外期間はすでに3月1日に失効しており、上限引き上げの合意が議会でなされなければ、今年後半にも政府の支払い財源が枯渇する見通しだ。
そのような状況で、米国で最近にわかに注目されている経済理論が、「現代金融理論(Modern Monetary Theory=MMT)」だ。この理論によれば、金融主権国家(自国中央銀行と自国通貨を持つ国家)は、自国通貨建て債券が消化される限り、通貨を必要なだけいくらでも発行できるため、国家の財政赤字は問題にならない。米国も当然、金融主権国家であり、MMTに当てはまる。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は2月の議会証言で、利上げ姿勢の後退によって金利を低位安定させ、米国債を安定的に消化させることでMMTを助長しているのではないか、と質問された。それに対し「自国通貨で借りられる国にとって、財政赤字が問題にならないという考え方はまったく誤っている」「重要な懸念は、債務残高が国内総生産(GDP)よりも早いペースで増加している点であり、歳出削減と歳入拡大が必要だ」と答え、真っ向から否定した。
自国通貨建て債券の発行増加は、債券市場の需給バランスが崩れることで、一般的には債券価格下落(金利上昇)、通貨下落につながる。ただ米国の場合、米ドルが事実上の国際基軸通貨であり、外貨準備として世界中に米国債を通して米ドルを保有する需要がある。実際に米国債も米ドルも堅調に推移しており、市場での需給バランスは保たれていることがうかがえる。それでもパウエル議長は警鐘を鳴らした。
日本も金融主権国家である。慢性的な財政赤字を抱えており、歳入の不足分は円建ての国債発行で賄われる。政府に歳出削減の意思は感じられず、年を追うごとに予算規模は過去最大を更新している。国債の主要な消化先は事実上、日銀なので、世界で最もMMTを積極的に実践している国が実は日本なのだ。
日銀は金利操作によって公然と金利を超低水準に保っており、金利の大幅上昇はありえない。本来ならそのしわ寄せが通貨下落として現れるはずだが、幸いなことに市場では円がいまだに「安全通貨」と見られている。日本が対外債権国であることがその背景とされるが、日銀の国債保有残高は対外債権額をはるかに超えた。円は基軸通貨ではなく、世界に円を保有する需要はない。市場の視点が変化して円安進行が制御困難にならないうちに、ぜひ財政健全化に取り組むべきだ。
(真意一到)