舞台 Ova9第1回公演 Necessary Targets~ボスニアに咲く花~=濱田元子
ボスニア難民キャンプを舞台に傷を負った女性たちを描く
戦争や紛争で傷つくのは、戦場の兵士だけではない。
「戦時下で武器として利用される女性に対する暴力を終わらせる」。ノルウェーのノーベル賞委員会は昨年、紛争下の性暴力と戦ってきたコンゴ民主共和国の医師とイラクの人権活動家の2人に平和賞を授与した理由を、そう説明した。
時に「政治的」とやゆされる賞だが、性被害の告発運動#MeTooが高揚するなか強烈なメッセージとして響いたに違いない。
「武器」としての性暴力が注目された最初の紛争が、旧ユーゴスラビアからの独立を求める民族紛争だと言われる。
そのボスニア紛争(1992~95年)における難民女性たちへのインタビューを基に、「ヴァギナ・モノローグス」で知られる米国の劇作家・人権活動家のイヴ・エンスラーが書いたのが本作だ。
アラフィフの女優らで作る演劇ユニット「Ova9(オバキュー)」が、旗揚げ公演として上演する。石川麻衣訳、若尾明子(=松熊つる松)演出。95年、ボスニアの難民キャンプが主な舞台だ。米ニューヨークの高級住宅街に住む精神科医JS(辻しのぶ)は米大統領の要請を受け、ライターで心的外傷のカウンセラー経験を持つメリッサ(渋谷はるか)とともに赴任。セラピーで、ズラータ(小谷佳加)、イェレナ(山上優)、ヌーナ(磯部莉菜子)、アズラ(上野裕子)、セアダ(ひがし由貴)の5人と向き合う。
内戦で故郷や家や家族、家畜を失った女性たちは、年代もバラバラ。話を聞きに来たという米国人に、興味や親近感を持つ者、不信感を抱く者、自分のことを語りたがらない者とさまざまで、セラピーも一筋縄ではいかない。
緊密な会話劇は、女性たちを過酷な状況に追いやった内戦の不条理さとともに、自らの使命に割り切れないものを感じ始めるJSと、インタビューを基に難民の本を執筆しようとしているメリッサとの確執がもう一つの軸となる。
誰の、何のためのセラピーなのか。作者自身の葛藤をも映し出しているようで興味深い。
ユニット結成について、「型にはまらず活動している、(新劇若手女優で作る)On7(オンナナ)の影響が大きい。一通り経験し、その先に行きたい」と語る松熊。本作を今に上演する意味を「振りかざしている正義は、本当に正義なのか。考えさせられる要素が入っている。いろいろキャッチしてもらえたらうれしい」。
紛争報道の陰には、無数の個の人生がある。女性たちの声に耳を傾けてみたい。
(濱田元子・毎日新聞論説室兼学芸部)
会期 4月24日(水)~30日(火)
会場 オメガ東京(東京都杉並区上荻2-4-12)
料金 前売り4000円、当日4500円
問い合わせ 090-5545-8088