日産ゴーン氏解任 ルノーと主導権争いで意思決定遅れるリスクも=河村靖史/編集部
日産自動車は4月8日、臨時株主総会を開き、前会長のカルロス・ゴーン容疑者(会社法違反=特別背任=の疑いで同4日に再逮捕)の取締役解任議案を提案し、承認された。1999年6月の取締役就任以来約20年にわたるゴーン体制は名実共に終わった。
日産はゴーン氏が最初に逮捕された2018年11月に会長職を解任し、代表権も外していた。総会では、ゴーン氏と共に金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で起訴された前代表取締役・グレッグ・ケリー被告の解任と、提携先の仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長を新たに取締役に選任する案も承認された。
2時間57分に及んだ総会には、株主4119人が出席。株主からは、株価やブランド低下への怒りの声が寄せられた。同社の2019年3月期連結純利益予想は前期比45%減の4100億円にとどまる。良くも悪くもルノーとの橋渡し役だったゴーン氏不在によって、開発や購買で共同歩調を取り切れていないのが現状だ。
ルノー、三菱自動車と組む3社連合は、統治改革として新たな会議体を設置し、合議制とすることを打ち出した。従来は、日産とルノー、日産と三菱自がそれぞれ提携戦略を協議する合弁会社をオランダに設置。ただ、運営や意思決定に不透明な点があり、実質的にはゴーン氏の独壇場となっていた。
会議体では、連合の資本構成に従ってルノー2人、日産1人、三菱自1人で意思決定する。事業規模は日産が大きいのに、連合の資本構成上はルノーが上位といういびつな構造は、意思決定やグループ運営でたびたび問題を起こしていた。一方、合議制は、ルノー・日産の主導権争いと相まって、意思決定をこれまでより遅らせる懸念もある。自動車業界で事業変革が加速している中、流れに乗り遅れるリスクもはらむ。今年2月には、日産と提携している独ダイムラーが、モビリティーサービスなどで独BMWと提携した。業界内では「ルノーとの主導権争いに時間・経営体力を消耗している日産に見切りをつけたのでは」との観測も流れる。
日産は株主配当を増やし続けた結果、大株主のルノーが恩恵を受けてきた。配当政策の変更にも注目が集まるが、着地点を見いだすのは容易ではない。
次期経営層も課題
株主からは、「ゴーンチルドレン」とも呼ばれる西川広人社長や志賀俊之取締役、監査役にも監視不足との批判が寄せられた。志賀取締役は6月で退任予定だが、西川社長は「過去のひずみ修正を十分に果たして次のステップに行けると判断した時点で、自らの処し方を考えたい」と、続投意向を明らかにした。
しかし、金商法違反では法人としての日産も起訴されている。有罪となれば、いずれ経営責任も追及されるだろう。その場合、次期トップの人選は難航必至だ。ゴーン氏は、頭角を現しても、自らの意思に従わない人物は排除してきたからだ。グループPSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)のカルロス・タバレスCEO(最高経営責任者)や、アストン・マーチンのアンディ・パーマーCEOは共に日産・ルノー陣営出身。かつてはゴーン氏との関係も良好だったが、排除され、転職した。ゴーン氏が「ルノー日産トップの座に色気を出した」と猜疑(さいぎ)心を抱いたためとされる。
ゴーン氏の反撃
一方、ゴーン氏の弁護団は4月9日、再逮捕前に撮影した同氏の動画を公開した。同氏は「私は無実」「陰謀だ」と主張。自身の経営スタイルについて「コンセンサスで意思決定するのは、競争の激しい産業では何らのビジョンをも生み出さない」「必要な時にはリーダーシップを発揮しなければ」と述べた。その“リーダーシップ”が残した爪痕はあまりにも大きい。
(河村靖史・ジャーナリスト)
(編集部)