映画 HOMIE KEI~チカーノになった日本人~=野島孝一
米最強ギャングに認められた、元やくざの壮絶な人生を記録
麻薬捜査で捕まり、米国の刑務所に収監されていた日本人の元やくざ、KEIの驚くべき体験が語られるドキュメンタリー映画だ。
2018年5月5日。快晴の湘南海岸ではボート遊びや水上スキーに夢中の子どもたちの姿が見られた。おいしそうな食べ物も用意されている。子どもたちの世話をするやさしそうなおじさんがKEIだ。長袖の白シャツをきちっと着て、サングラスもかけずに汗を流す。
この行事は、子どもたちに幸せを感じてもらうためにKEIが毎年、無償で行っている。やさしい目で穏やかに話すKEIは、とても生き地獄を潜り抜けた男とは思えない。しかし、鼻から頬にかけてはすさまじい刀傷があり、体中に入れた入れ墨は隠しきれず、左手小指は欠損している。
KEIは1961年生まれ。東京・中野育ち。中学でグレはじめ、暴走族を経て新宿・歌舞伎町のやくざになる。羽振りがよく遊び暮らしていたが、ハワイで米連邦捜査局(FBI)のおとり捜査にはめられ、麻薬密輸を企てたとして逮捕。カリフォルニア、オレゴンなどの刑務所で10年以上服役した。収監中、刑務所最強のギャング、チカーノ(メキシコ系米国人)たちと親しくなり、日本人として初めてチカーノとして認められた。
映画はKEI本人の口で体験を語らせる。幼いころ母親に捨てられたKEIは、親戚をたらい回しされ、気が付けば荒れた生活に足を踏み入れていた。KEIはその後、生みの母親を見つけ、養育していたという。KEIの母親が出てきて過去を語るのも、大きな見どころだ。
現在のKEIは、チカーノ文化を取り入れたファッションブランドを立ち上げ、チカーノ趣味のクラブなどを経営している。子どもたちが集まる小さな施設も作っている。それは自分のような境遇の人間を減らしたいからだという。刑務所でKEIはたった一人の日本人だった。刑務所に入りたてのころ、チカーノと危機一髪の緊張状態に陥った。普通なら殺されていてもおかしくなかった。それがチカーノに仲間と認められたのは、たった一人で大勢に立ち向かう男気ゆえだろう。日本のやくざは世界でも有名だというから、それも有利に働いたのかもしれない。
最近、KEIはチカーノの元刑務所仲間に会うために渡米した。会ったのは、仲間の母親だった。彼女は英語が話せないのに、KEIに会うために刑務所にたびたび面会に来てくれた。そんな人間性と、修羅の過去を併せ持つ人物のドキュメンタリー映画が、好奇心をかき立てないわけがない。
(野島孝一・映画ジャーナリスト)
C映画「HOMIE KEI チカーノになった日本人」製作委員会
監督 サカマキマサ
出演 KEIとその家族
2019年 日本
4月26日(金)~ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開