スタバvs.ラッキンコーヒー 「店舗体験」か「低価格・配達」か=岸田英明
中国最大の米コーヒーチェーン「スターバックス」と新興の「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」の競争が、中国でコーヒー業界を超えて注目されている。経営の力点を「店舗体験」に置くスタバに対し、デリバリーも重視するラッキンがデータを駆使した高効率経営で挑む。対照的な戦略の対決が、消費市場の将来全体を占う論点を提供しているためだ。
1年で2000店超
ラッキンは自身を、ビッグデータを活用して広告や出店、キャンペーン、デリバリーなどを効率的に展開する「新小売」企業とうたう。北京での1号店のオープンは2018年1月。同年末までに1200万人超のスマホアプリ会員を集め、23都市で2000店超のネットワークを築いた。19年中に4500店舗まで拡大させる計画で、スタバの3700店舗(19年3月時点)を上回る見通しだ。
重要な論点は「価格競争力と利便性で勝るラッキンと、店舗でのユーザー体験で勝るスタバは、どちらがコーヒーチェーンとして長く成長していけるか」である。
ラッキンは、注文をスマホアプリから受け、店舗では商品を手渡すだけ。そのため、店舗の座席数は少なめで、テークアウト・デリバリー用の店舗も多数擁する。商品価格はスタバの7割ほどだが「飲み物のチケットを2枚買うと、追加で1枚プレゼント」といったキャンペーンを常時行っているため、実質的には半額程度だ。購入された飲料の2割ほどがデリバリーで(残りがテークアウトと店内消費)、平均配送時間は16分43秒となっている。
一方のスタバも18年9月にデリバリーサービスを始めているが、「店舗体験を売る」という基本路線はぶれていない。豆やいれ方、内装にもこだわった高級路線の「スターバックス リザーブ」をこれまでに中国全土で137店舗オープンさせている。その中で最大規模を誇る上海の「リザーブ ロースタリー」では、サイホンでいれたコーヒーを1杯96元(約1600円)で提供する。これをテークアウトやデリバリーで飲もうという消費者はまずいないだろう。写真映えする店内では、スマホを掲げる客の姿が目立つ。リザーブの展開先は北京や上海を中心に、全国の都市に広がっている。
テークアウト・デリバリー重視のラッキンの店舗作りは、運営コストを下げられ、商品を安く提供できるというメリットがある一方で、ユーザー体験の面で劣り、ブランドイメージを高められないという弱点がある。また特にデリバリーの場合、味や口当たりが落ちる。フォームミルクが乗った場合はなおさらだ。
ラッキンは若いスタートアップであり、現在掲げている「コーヒー新小売企業」の看板にこだわらないのであれば、今後、店舗作りを重視したり、商品・サービスの多角化を図る方向へと戦略を転換させる可能性もある。
データとテクノロジーに立脚した効率重視の「新小売」が、ユーザー体験という弱点にどう向き合っていくのか。両者の関係を考え、コーヒーチェーンを含む中国の消費市場全体の方向性を占う上で、「スタバvs.ラッキン」の戦いの行方が大いに注目される。
(岸田英明・三井物産北京事務所シニアアナリスト)