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「女性・女系天皇」の容認へ舵を切る選択肢が首相にあるか=人羅格

皇位の安定的継承が再び議論の焦点となる=5月4日
皇位の安定的継承が再び議論の焦点となる=5月4日

「令和」改元を経て、後半国会が動きだした。首相が衆院解散を断行して衆参ダブル選挙に踏み切る流れが加速していくのか。与野党の関心はその一点に絞られる。

 それだけに与野党の攻防は、選挙の争点を見据えたものになる。

 憲法改正をどう位置づけていくかは、焦点の一つだ。安倍晋三首相は5月3日の憲法記念日に改憲派集会に寄せたビデオメッセージで「2020年に新しい憲法を施行する気持ちに変わりはない」「先頭に立って責任を果たす」と述べ、来年施行の目標は不変だと強調した。

「令和」に埋もれる改憲

 だが、実際には9条に自衛隊を明記する改憲案をめぐる動きは停滞している。それどころか、夏の参院選の結果次第では、改憲勢力が参院で改正案発議に必要な「3分の2以上」を確保できるかもままならない。

 憲法改正を国政選挙の争点に据えようとする機運は、公明党だけでなく自民にも乏しい。毎日新聞が4月に実施した世論調査では、安倍政権の間に改憲を行うことに「反対」が48%で、「賛成」の31%を大きく上回った。改憲ムードは「令和ブーム」に連動せず、むしろ埋没しているようだ。

 それをよそ目に立憲民主党の枝野幸男代表は同じ憲法記念日に、皇位の安定的な継承について言及した。「女性や女系天皇に対する国民の理解や支持は非常に大きい。女性宮家の問題とともに、参院選に向けてしっかり訴え、国民の理解を広めたい」と提起した。同党幹部は「国のかたちにかかわる議論として『安倍改憲』より数倍、国民の関心は高い」とみる。

 天皇陛下の即位に伴い、皇位継承資格を持つ男子の皇族は皇嗣である秋篠宮さま(53)、秋篠宮ご夫妻の長男悠仁さま(12)、新陛下の叔父にあたる常陸宮さま(83)の3人のみとなった。

 陛下より世代を隔て年下の男子は悠仁さまだけだ。このため、世襲を男系男子に限る皇室典範の継承ルールに従えば、悠仁さまに男子がいなければ、将来の皇位継承に困難を来しかねない。

 だが、安倍内閣は皇位の安定的な継承に関する議論に着手することに慎重だ。菅義偉官房長官はいったん「(新天皇の即位後)時間を待たず」議論に着手すると表明したが、その後「11月以降」に軌道修正した。

 この問題の論点は05年、小泉純一郎内閣の「皇室典範に関する有識者会議」がまとめた報告書ですでに出尽くしている。

 天皇が皇太子時代、長女愛子さま(17)誕生から約4年後に進められた議論である。ここで報告書は「男系男子」による世襲について、側室制度がない中で皇位の安定的継承は「極めて困難」と指摘し、女性天皇や父方が天皇の血筋でない女系天皇を容認すれば、「象徴天皇制度の安定的継続を可能にする」と結論づけている。

 ところが翌06年2月、秋篠宮妃紀子さまのご懐妊が発表されると皇室典範改正に向けた論議は急速にトーンダウンし、女系天皇は皇室の伝統に反するとの右派の批判も本格化した。悠仁さまが誕生し、第1次安倍政権が発足すると、議論は立ち消えになった。

野党は世論に「追い風」

 そしていま、新天皇の即位を受けて改めて皇位継承をめぐる議論が注目を浴びている。

 男系を維持しつつ、女性天皇を認めることが将来的に一つの選択肢となるかもしれない。過去に8人、男系の女性天皇がいた前例があるためだ。

 ただし、過去の女性天皇はいずれも未亡人か生涯独身で、夫がいる状態で皇位に就くことは避けられてきた。女性天皇に結婚を認めないような議論は現代に当然、通用しないだろう。

 一方、女系天皇に反対する勢力には、GHQ指令で皇籍離脱した旧皇族の皇籍復帰を求める声もある。女系天皇に慎重な首相も過去に選択肢として言及している。

 だが、旧皇族が皇族復帰に応じる保証はない。しかも約600年前の室町時代までさかのぼらないと現皇室と共通の祖先にたどり着かない遠縁だ。さきの有識者会議は国民の理解や現実性に疑問符がつくとして「採用は極めて困難」と結論付けている。

 結局、皇位の安定的継承を議論すると女系天皇の判断を迫られる公算が大きい。それだけに、右派に基盤を置く首相はおいそれと議論に踏みだせない。

 対照的に立憲民主党など野党は「女性・女系天皇」論に世論の追い風を感じている。共同通信の最近の調査では、女性天皇に賛成と答えた人は79・6%に達した。「女系」と区別した設問でないとはいえ、皇位が性別の垣根を越えることに世論は柔軟なようだ。

 天皇の代替わりに道を開いた特例法は、付帯決議で安定的な皇位継承について速やかな検討を求める。野党が議論を促すことは、これに沿った動きでもある。

 安倍政権はタカ派色の濃い政策を推し進める半面、右派が反発する外国人労働者の受け入れ拡大など、タカ派を抑え込むことでも政策転換を実現してきた。

 象徴天皇制の持続を脅かす課題を直視し、「女系・女性」容認に舵(かじ)を切るような選択肢が果たして首相にあるだろうか。

(人羅格・毎日新聞論説委員)

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