舞台 新国立劇場 オレステイア=濱田元子
ギリシャ悲劇を大胆に再構成
観客とキャッチボール
地の底から湧き出すような愛や嘆き、怒り、憎しみ。ギリシャ劇はあらゆる感情が押し寄せる。二千数百年以上たっても、アクチュアルな魅力を失わないのは、テクノロジーが進化しても結局、人間という生きものは少しも変わっていないということの裏返しなのだろう。
大ディオニュシア祭などにおいてコンテスト形式で上演されたギリシャ劇は、悲劇32本、喜劇11本、サテュロス劇(笑劇)1本が完成形で残っている。
ソフォクレス、エウリピデスと共に古代アテネの三大悲劇詩人と呼ばれたのがアイスキュロス(紀元前525年ごろ~456年ごろ)。代表作の一つがオレステスの悲劇を軸にした「オレステイア三部作」(「アガメムノン」「供養する女たち」「慈しみの女神たち」)だ。
トロイ戦争を背景に、ギリシャ軍の総大将アガメムノン一家に起こった凄惨(せいさん)な殺人と復讐(ふくしゅう)の連鎖、過酷な運命が描かれる。 本作は英国の作家・演出家であるロバート・アイクがその「オレステイア三部作」に現代的視点を取り入れ、大胆に再構成した意欲作だ。平川大作訳、上村聡史演出で日本初演される。
アガメムノン(横田栄司)は神託を受け、戦争勝利のために娘イピゲネイア(趣里)を生贄(いけにえ)に捧げる。一方、妻クリュタイメストラ(神野三鈴)は、凱旋(がいせん)してきた夫を娘のあだとして殺害。そして息子のオレステス(生田斗真)は母を父のあだとして復讐を果たすが、その罪をもって法廷で裁かれることになる。
アイク版は、惨劇のトラウマを抱えるオレステスが、医師との会話の中で過去を回想していくという構成。アイスキュロス版に、前段となるエウリピデス作「アウリスのイピゲネイア」を織り込むことで、娘を殺さざるを得なかったアガメムノンの苦悩、さらには戦争に駆り立てる狂気も浮かび上がる。
果たして正義は行われたのか? 姉エレクトラ(音月桂)との関係は? スリリングな展開がぐいぐい引きつける。
「三部作で現代まで残っているのは『オレステイア』しかない。国家、戦争というすごく大きいところから、家族、殺人という流れで最後に赦(ゆる)しがある。三部作だけあって、変遷の仕方が今のお客さんにも通じるかなと思う」と演出の上村は話す。
今に呼応するアイクの仕掛けも面白いという。「お芝居をやっているさなかでも、戦争、殺人が起こっているというのを感じさせる作りになっている。観客への問いかけ、キャッチボールを意識した作品です」
英国の初演時の上演時間は3時間40分。さて今回は? お手軽がもてはやされる現代に、それもまた新鮮な体験だろう。
(濱田元子・毎日新聞論説室兼学芸部)
日時 6月6日(木)~30日(日)
会場 新国立劇場中劇場(東京都渋谷区本町1-1-1)
料金 S席8640円、A席6480円、B席3240円、Z(当日)席1620円
問い合わせ 03・5352・9999(10時~18時)