教養・歴史アートな時間

映画 ベン・イズ・バック=野島孝一

    (C)2018-BBP WEST BIB,LLC
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    命がけで息子を救おうとする母

    米国の深刻化する薬物問題を描写

     私たち映画評論家は、連日映画会社の試写室を回って試写を見るのが日課になっている。ある日、「ベン・イズ・バック」を見た後、続けてほかの試写室で日本でも4月に公開された「ビューティフル・ボーイ」を見た。「君の名前で僕を呼んで」の美青年ティモシー・シャラメが出演している作品だ。

     すると、両方ともティーンエージャーの息子が麻薬や薬物中毒でメタメタになり、親たちが大変な苦悩を背負う話だった。欧米では若年層の中毒問題がここまでも深刻になっているのかと知らされ、大変な事態だと考えさせられた。

    「ベン・イズ・バック」は、ジュリア・ロバーツが母親のホリーを演じている。19歳の息子ベン(ルーカス・ヘッジズ)がクリスマスの朝にいきなり家に帰って来た。ベンは薬物依存症の矯正施設に入れられていたのだが勝手に抜け出してきたのだ。

     妹のアイヴィー(キャスリン・ニュートン)や継父のニール(コートニー・B・ヴァンス)は、いきなり戻ったベンに警戒を隠さないが、ホリーは我が息子の更生を信じて疑わない。ところが一家が教会へ行っての留守中、家が荒らされ、飼い犬が連れ去られる。ベンとホリーは車で心当たりを探しに行くのだが──。

     ベン役のルーカス・ヘッジズは「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の演技で評判になり、日本でも最近公開されたジョエル・エドガートン監督の「ある少年の告白」でも話題になった。牧師の息子が同性愛の矯正施設に入れられるが、そこはとんでもないひどい場所だった、という実話に基づく。

     ルーカス・ヘッジズは「ベン・イズ・バック」を作ったピーター・ヘッジズ監督の実の息子だ。「エイプリルの七面鳥」などの名監督を父に持ったが、本人は「親父の映画には絶対に出ない」と言い張っていた。ジュリア・ロバーツがなだめて出演を承諾させたという。ルーカスは静かなまなざしで、引きつけるものを持っている。

     ベンは過去に麻薬を売って女の子を死なせたことがあった。そういうつらい事実がじわりと明らかにされていく。ベンとホリーは車で、さらわれた犬を探して、麻薬患者がうろつく“やばい”地域に入り込む。一歩間違えれば、母子がどうなるかわからないというサスペンス・ムードが高まる。

     クリスマスイブの長い一日の話だ。家族がそろって教会に礼拝に行くような上品な家庭でも薬物の影響から逃れられない米国の現実。ジュリア・ロバーツが息子を守ろうと必死の母親ホリーの母性愛を見事に表現した。

    (野島孝一・映画ジャーナリスト)

    監督 ピーター・ヘッジズ

    出演 ジュリア・ロバーツ、ルーカス・ヘッジズ、キャスリン・ニュートン

    2018年 米国

    TOHOシネマズシャンテほかで公開中

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