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教養・歴史 アートな時間

映画 僕はイエス様が嫌い=寺脇研

(C)2019 閉会宣言
(C)2019 閉会宣言

軽快なタッチで神と対峙

若き俊英が描くファンタジー

 東京から雪深い田舎に転居することになった小学5年生の少年がいる。おじいちゃんが亡くなり、一人暮らしになったおばあちゃんと同居することになったらしい。自家用車の運転席と助手席に居る両親の会話をよそに、後部座席で一人ぼんやり窓外を眺める姿から、彼の諦めと不安が感じられる。それはそうだ。遠くへ引っ越して転校するのが好きな子どもなんて、まずいない。経験のある人なら誰しもがうなずくだろう。

 転校先の小さな学校は、なぜかキリスト教系で校内に礼拝堂があり、何かというとお祈りをするし聖書を持たされるし、彼は戸惑うばかりだ。いや、見ているわれわれ観客も戸惑ってしまう。こんな学校だと知らなかったらしい彼に、両親やおばあちゃんはなぜ何も言わないのだろう? 寄宿舎もないらしいのに、こんな山奥で私立学校が成り立つの?

 すると、誰も居ない礼拝堂の祭壇で立ちすくむ少年の前に、手のひらほどのサイズのキリストが突然出現する! 驚く彼を尻目に、不思議なイエス様は何も語らず、ただそこに存在した。その後も、折に触れて少年の周辺に現れるのだが、彼以外の目には見えないらしい。……と、ここでわれわれは、この物語が実はファンタジーだということに気づかされる。なにしろこのイエス様はなかなかお茶目で、回るレコード盤の上で走ってみたり少年の作った紙相撲の力士と取組に及んだりするのだ。

 こんな人を食った仕掛けをたくらんだ奥山大史は、まだ23歳の新鋭である。この作品で、スペインの第66回サン・セバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少(22歳!)受賞した。それはおそらく、これに込められた宗教への問いかけを、カトリック教徒が大半の国の人々が感じ取ったからだろう。そう、お茶目なイエス様は、少年が神様について深く考えるきっかけとして現れたのである。

 転校して初めてできた親友と言っていい友達が突然車にはねられ、意識の戻らないまま亡くなってしまう。最近の池袋の高齢ドライバー事故といい、大津の交差点事故といい、幼い命を奪う自動車禍が起きる度に、その不慮の死に多くの人が不条理を感じる。ましてや、少年にとっては、やっと得た親友の喪失だ。イエス様はどうして救えないのかと、思い詰めてしまうのも無理はない。そして……。

 神はなぜすべての人を救えないのか、という疑問は、遠藤周作『沈黙』など、幾多のキリスト教作家たちが追究してきた。その難しい命題に、若い監督が軽やかなタッチで挑み、しかし年長のわたしたちにもしっかり考えさせてくれた。

(寺脇研・京都造形芸術大学客員教授)


監督 奥山大史

出演 佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、佐伯日菜子

2019年 日本

TOHOシネマズ 日比谷ほか公開中

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