米のファーウェイ排除はハイテク中華圏誕生の契機にも=豊崎禎久
トランプ米政権が、中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に対する制裁に踏み切り、ソフトバンク傘下の英半導体設計大手アーム・ホールディングスによる取引停止や、米グーグルのOS(基本ソフト)「アンドロイド」の供給停止検討が伝えられている。
ファーウェイ排除の動きは、中国が最先端技術で米国を追い上げる勢いを短期的に弱めることで効果を上げるだろう。ただし、5年、10年の長期戦を覚悟して中国側が腹を据えれば、米国の影響を受けないハイテク経済圏を構築することは可能だと筆者は考える。
周辺機器規格から排除
ファーウェイ包囲網が形成される中、筆者が注目したのは、コンピューターのCPU(中央演算処理装置)と周辺機器との通信を行う「PCI(コンピューター用拡張インターフェース)バス(信号線)」の標準化団体からファーウェイが排除されていたことだ。モバイル機器のインターフェースの標準化団体「MIPIアライアンス」にもファーウェイ(子会社ハイシリコン)の名を確認できなかった。いずれもファーウェイは以前は加盟企業として記載されていたはずだ。
MIPIは、モバイル機器とカメラなどのデータ伝送の規格を定めていた団体だが、ここで扱う画像関連の技術は近年、自動運転で使われている。
スマホ用CPUコア(頭脳)設計で世界首位のアームがファーウェイとの取引をやめれば、短期的にはファーウェイに影響がある。とはいえ、中国系ファンドが、英国のイマジネーション・テクノロジーズ(IMG)を2年前に買収。IMGはアップルにGPU(画像処理半導体)を供給していた半導体の知財企業で、GPUだけでなくCPUのベースとなる設計技術も保有している。アームから取引を停止されても、ファーウェイはIMGからの供給に切り替えることができる。OSについても、従来からファーウェイは開発を進めていたし、資金力とソフトエンジニアもある同社なら、時期は不明だが独自に投入することは可能だ。
ファーウェイにとっては、PCIやMIPI、SDカードから排除されるほうが影響は大きい。今後もこれらの技術を使用することができるが、将来の標準規格の開発で発言権を失い、先行開発の製品にアドバンテージがなくなる。
これも時間をかけることができるなら、独自規格のインターフェースを作ればいいだけの話だ。携帯電話などで用いられた「MicroUSB」は中国が提唱した規格で、ノキアが採用して世界標準になった。
米政権の中国締め出し戦略は、結果的に中国14億人に加え、中国が影響力を強めるアフリカ12億人で構築する米国の影響を受けないハイテク経済圏誕生の契機になると予想する。
日本企業には米国からファーウェイとの取引をやめるよう強い要請が来ている。半導体製造装置や材料、電子部品など日本企業は鍵を握っているからだ。
しかし、近い将来に中国が独自のハイテク経済圏を作り上げた際に、日本がアクセスできなくなるリスクは軽視できない。日本には米国にも中国にものみ込まれずに存在感を維持する産業政策が必要だ。
(豊崎禎久・アーキテクトグランドデザイン ファウンダー&チーフアーキテクト)