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ウーバーが公開価格割れ 市場が見たライドシェアの未来=土方細秩子

ウーバーは世界で普及し始めたが赤字(ドイツのフランクフルトで利用されているウーバー)(Bloomberg)
ウーバーは世界で普及し始めたが赤字(ドイツのフランクフルトで利用されているウーバー)(Bloomberg)

 昨年9月以降慎重に準備が進められてきた米配車サービス、ウーバー・テクノロジーズの株式上場。米国ではフェイスブック、アリババに次ぐ規模のものとして注目を集め、上場により同社は1200億ドルの資金を調達できる、と予想されていた。ところが5月10日、1株当たり45ドルで上場された株式は公開直後から急落、近年で最も不成功に終わった上場、と呼ばれる結果となった。

 公開価格割れの原因にはさまざまな要素がある。まず、米国と中国の貿易摩擦の激化により、上場日となった10日は米国の株式が全般的に急落を見せていた。特に金属類の価格上昇による影響が大きいと考えられる自動車関連が大幅な値下がりを見せ、テスラも同日には2年ぶりという低価格をつけた。

 しかし公開から10日以上たってもウーバー株は値上がりする気配がない。5月22日現在の株価は40ドル47セントにとどまっている。そこから見えてくるのは投資家たちがウーバーという企業の将来について、ある懸念を抱いている、という予測だ。

図1 売り上げは拡大だが、赤字が続くウーバー
図1 売り上げは拡大だが、赤字が続くウーバー

累積赤字は11億ドル

 ウーバーはライドシェアサービスの他、ウーバー・イーツのフードデリバリーなどの事業を展開し、自動運転実用化に向けた実験や、空飛ぶタクシー構想も発表している。しかしコアとなるライドシェアはそもそも「もうかる」ビジネスとは言えない。ウーバーは確かに利用者数を順調に伸ばしてはいるが、事業としては赤字体質であり、2018年10~12月期の時点での赤字額は8億6500万ドルとなっている(図1)。

 タクシーのおよそ半額、という価格で人気のウーバーだが、ドライバーの賃金や諸経費を差し引けばもうけなどないに等しい。しかもウーバーはライバルである米リフトとの差をつけるために、新たにドライバーとして登録した人に対しインセンティブを提供するなど、利益をますます圧迫する手法を取っている。

 それでもウーバーに将来性を感じるベンチャー投資企業として、ベンチマーク・キャピタル、GV(米アルファベットのベンチャーキャピタル部門、旧グーグルベンチャーズ)、フィデリティ・インベストメンツなどから多額の投資を集めてきた。ウーバーがこれまでに集めた投資総額は760億ドルとも言われている。しかし現時点でのウーバーは投資家にとって投資を回収できる企業には成長していない。

図2 有力テック企業の公開時の時価総額
図2 有力テック企業の公開時の時価総額

 その一方でウーバーの自動運転の実験走行車両が人身事故を起こしたり、ドライバーが女性を監禁した容疑で逮捕されるなど、ネガティブなニュースも多い。特に自動運転に関してはアルファベット傘下のウェイモ、テスラ、そして巨大自動車メーカーなどが開発競争を行っており、ウーバーがこれらをしのいで独自の自動運転車両を開発できるのかは疑問だ。つまりウーバーとは投資のみでビジネスを成り立たせている、いわばスタートアップ・バブル企業だ、という指摘もあるのだ。

 そしてライドシェアの将来への懸念も当然ながらある。一部の市場ではすでにライドシェアは成長の限界に来ている、とも言われる。米国では最大のライバルであるリフトのほか、レンタカー会社や自動車メーカーが独自に提供するライドシェアも登場しており、競争が激化しているためだ。

 世界を見ても中国の滴滴出行(DiDi)をはじめとするライバル企業が次々に登場している。これらの企業が海外への進出を始め、ウーバーと市場争いを行っているのだが、特にウーバーにとって「最大の頭痛のタネ」とも言われているのがソフトバンクの存在だ。

 ソフトバンクはビジョン・ファンドと呼ばれる1000億ドルの投資を世界中の有望企業に対し行っているが、その中にはウーバー、そしてライバルであるリフトも含まれる。さらにソフトバンクは滴滴、そしてブラジルのライドシェア・スタートアップである99にも同時に投資を行っている。99は現在、滴滴に買収され、南米でのシェアを急激に伸ばしつつある。

 これにより、米国の飽和状態から中南米に市場の成長を期待していたウーバーは大きな痛手を受けた、と言われている。

 ウーバー・イーツに関しても米国ではソフトバンクがライバルであるドアダッシュに投資を行っているし、南米でもラピ(Rappi、本社ボゴタ)という同様のサービスに投資を開始した。つまり自らの大口投資家が同業他社にも投資を展開することで、ウーバーの成長に黄信号がともり始めた、という皮肉な結果となっている。

リフトも公開価格割れ

 ウーバーのライバルであるリフトはウーバーに2カ月先行して上場を行ったが、こちらも上場2日目に公開価格割れを起こした。つまり市場はすでにライドシェアというビジネスの将来への懸念を抱き始めており、ウーバーが上場したのはあらゆる意味で最悪のタイミングだった、とも言える。

 もちろん、ライドシェアサービスに「もうかる」ビジネスモデルがないわけではない。最大の解決策は自動運転タクシーの導入だ。

 現在ライドシェアビジネスを圧迫しているのはドライバーの人件費で、完全自動運転でのライドシェアが実現すればこの人件費がなくなりライドシェアはより利益性の高い企業になれるだろう。

 この点について4月18日(米国時間)、トヨタとデンソー、ビジョン・ファンドは、ウーバーの自動運転部門に10億ドルの投資を行うと発表した。ただし5月29日にはトヨタが滴滴への出資を検討しているとの報道もあり、ウーバーにとって単に明るいニュースとはいえない。どちらが先に自動運転ライドシェアを実現できるかにより、今後の勢力図にも影響が及ぶかもしれない。

 ウーバーはライドシェアにとどまらず、アプリから公共交通のチケット購入を可能にし、電動スクーターや自転車のレンタルも含めた「総合的交通ソリューション」企業を目指している。その方向性が成功につながるのか、あるいは過渡的なものに終わるのか、市場は注意深くその成長の方向を見極めているようだ。

(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)

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